『比較文學研究』第91号(特輯:戦後日本文学)が、2008年11月に
刊行されました。
定価は3,700円(税別)です。
以下は『比較文學研究』第92号の「編輯後記」です。
編輯後記
◎ 「横光利一」を特輯した本号は、会員外の執筆者を多く迎えることに
なった。横光に関する多数の業績をお持ちの十重田裕一氏は、現在駒場
で比較文学の授業を担当して下さっている。文学と映画の交差するとこ
ろにつむがれた横光と川端のテクストのきめ細やかな分析は、二人の新
感覚派文学者がそれぞれのかたちで映画表現に触発された痕跡を鮮やか
に示していて興味深い。
◎ 金泰?氏と林少陽氏にも、本特輯のために執筆を依頼した。金泰?氏
は近々言語情報科学専攻に『旅愁』論の博士論文を提出予定である。
編輯委員三名による査読を経て掲載が決まった。林少陽氏も同専攻出身
で、西脇順三郎の博士論文で学位を取得し、助手を経て、現在は特任准
教授として中国語を教えている。
◎ 横光を出発点として、今では移民文学、文化混交、ポストコロニアル
と多様な問題系を行き来しながら執筆をつづける中村和恵にも参加をお
願いした。
◎ 本号の巻頭言で、加納孝代氏は比較文学比較文化研究の対象を、壮
大な外観を見せながら、不思議な親しみ深さに満ちた内部をもつ「ゴ
チックの大伽藍」に喩えておられる。
◎ フランスにおけるハイカイ受容をめぐる金子美都子氏の論文と並ぶ
のは李京僖氏の岡倉天心論であり、いずれも時代の大きな流れの中で
文学テクストが放つ煌めき、あるいはそれが時代と格闘する様を丁寧
に追っている。李論文は、編輯委員四名の査読を経て掲載された。稲賀
繁美氏は「全地球化」時代における比較文学研究のあり方を問う。
◎ 書評では、バーナード・リーチ、わびとさび、ラフカディオ・ハーン、
朝鮮近代文学とナショナリズム、そして展覧会カタログ評では青山二郎
と柳宗悦といった具合に、まるで示し合わせたかのように、東西の衝突、
東アジアの交流という長年比較文学研究が培ってきたテーマが並んでい
る。権丁熙氏の博士論文も韓国における「不如帰」である。
◎ 小林信行氏の「円熟期の島田謹二教授」ではついに『比較文學研究』
第一号が発刊される。小林氏の誠実なお仕事に改めて感謝したい。
◎ 去る八月悲しい知らせが届いた。長年の闘病生活の末、内藤高氏が
他界された。痛みを一切顔に出さず、いつも穏やかな笑みを浮かべて
おられた内藤さん。クローデル研究者であり、また繊細な神経で「明治
の音」に耳を傾ける内藤氏のお仕事こそ大伽藍入りにふさわしい。安ら
かに眠られることを心よりお祈りする。
(エリス俊子)

