世界と日本の比較文学雑誌
1 世界の比較文学雑誌——総括の試み(2021年)
比較文学という学問はフランス起源であるが、そのフランスで最も歴史ある研究誌 Revue de littérature comparée が、発刊(1911–)百年を記念して、2021年10–12月合併号(Klincksieck 、2022年春)で、« Le monde des revues de littérature comparée »(éd. par Yves Chevrel イヴ・シュヴレル監修、「比較文学雑誌の世界」)を特集した。
https://www.klincksieck.com/livre/9782252045411/revue-de-litterature-comparee-n42021
国名のアルファベット順で、南アフリカから始まって計35ヶ国85タイトルにもおよぶ比較文学雑誌についての記事が並んでいる。編集部から各国著者(各雑誌編集責任)へは、「一般の文学雑誌と異なって、比較文学雑誌の特色をどのように出しているか」「今後デジタル化する予定はあるか」等の質問があり、世界共通の課題(あるいは悩み)が存在することをうかがわせる。
私たちにとって大変に興味深いのは、計85タイトルの雑誌が「発刊年の時系列」に並べられた別表(pp.404-406)によって、比較文学の歴史そのものを実感することができるという点である。例えば、このフランスの『比較文学雑誌』を除けば、最も初期の雑誌は、デンマークで1943年に発刊されたOrbis Literarum (『文学世界』)となり、第二次世界大戦中および戦後すぐには、ほとんど活動が無かったことが分かる。その後、アメリカで2冊(1949年、1952年)、イタリアで1冊(1952年)が続く。
そして注目すべきは、東大比較文學會『比較文學研究』(1954 年)が 5 番目、日本比較文学会『比較文学』(1958 年)が6 番目、早稲田大学比較文学研究室『比較文学年誌』(1965 年)が 11 番目に位置していること。つまり日本の比較文学雑誌はいずれも、世界的に古い歴史をもっていることが、改めて明らかになったのである。
一方で、1900年代には19タイトル、2000 年代に入ってからは実に37タイトルもの新しい雑誌が世界で刊行されており、この学問がなお、「現代的」要請に応える可能性があることが証明されている。とりわけチェコ、スロバキア、ルーマニア、エストニア、スロヴェニアのような中央ヨーロッパ諸国が多いのは1989年以降の世界動向が必ずや関係しているだろうし、イスラエルやインドなどが加わっているのも注目される。
今後の若い研究者はこうしたリストをもとに、各国の最前線の学問動向を逸早く把握出来ると共に、(その多くが母語で執筆されている雑誌が多いため)自分の力の到底及ばない多くの言語については、AI翻訳などの活用によって、せめて題目の把握などから各国の動向を知ることもできるだろう。
2 日本の比較文学雑誌——『比較文学』『比較文學研究』
さて上記の世界的特集は全てフランス語で執筆(あるいは翻訳)されているため、ここでは日本語版を以下、掲載することとする。
[註=原文執筆は今橋映子。『比較文学』については井上健先生から多くの御教示を賜りました。また『比較文学年誌』に関しては、早稲田大学・源貴志先生に執筆して頂きました。Revue de littérature comparéeへのフランス語翻訳は、Marianne Simon-Oikawa氏です。関係諸氏に御礼申し上げます。——2021年記]
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日本は古来より18世紀に至るまで、中国の影響を多分に受けてきた文学環境からいって、「比較」的な観点を常に内包していたといってよい。フランス起源の「比較文学」の移入は早く、1889年に作家・坪内逍遙が「比照文学」と称して早稲田大学にて講義したのが嚆矢ともいわれる。日本の作家は西ヨーロッパの文学を早くから学び、翻訳し、それを参照して新しい文学ジャンルやスタイル、文体などを創始した。明治時代にすでに西ヨーロッパのみならず、ロシア、東欧、北欧、アメリカなど地域的にも広い範囲の文学がほぼリアルタイムで紹介、翻訳されて、1910年代には「世界文学」の用語も知られ、知識層で論議されていた。
学問としての本格的導入は、主に第二次世界大戦後(1945年以降)になる。1948年に日本比較文学会が設立、1953年に東京大学大学院に比較文学比較文化研究室が設立されたのが、本格的導入のきっかけとなった。そしてまた、それらの組織によって比較文学関連雑誌が創刊されたのである。今回ここで紹介するのは、現在でも活発な活動を続けている3つの組織の雑誌である。すなわち、日本比較文学会の『比較文学』、東大比較文學會『比較文學研究』、早稲田大学『比較文学年誌』について紹介しよう。
これらの3つの雑誌は、専ら「比較文学」を扱い、ターゲット・オーディエンスは研究者であるが、東大の『比較文學研究』だけはISBNを付けて市場に流通している文芸誌でもあり、様々なテーマの特集を組んで、文学研究の「現在」を一般読者にも知らせる媒体になっている。また日本比較文学会の『比較文学』は発刊後1年経つと、日本の学術オンラインサービス(J-STAGE)で無料全文公開されており、紙媒体の雑誌が手に取れない海外留学生たちにとっても貴重な情報源となっている。3つの雑誌とも、若手研究者の論文査読制度に力を入れており、未来の研究者を育成する教育の場であることも重要であろう。
日本における比較文学は、19世紀にはフランス、その後アメリカに中心を移して発展深化してきた理論を逐一研究して取り込みながらも、独自の領域も開拓してきた——とりわけ、非西欧諸国における「近代化」の諸問題、翻訳論、比較詩学、比較芸術、東アジア比較文学などでめざましい成果を上げている。また日本語は、世界的にはマイナー言語であるため、明治期以来日本の研究者は語学習得に多くの時間を割いてきた。西ヨーロッパ諸語や中国語、ロシア語などは言うまでもなく、北欧、東欧、アフリカ、アラビア、ペルシャ、トルコ、イディッシュなどの言語に通ずる優れた研究者が、同時に比較文学者でもあるケースも多く、英語翻訳を媒介としない比較文学、世界文学の研究に取り組んでいる。
1991年には、国際比較文学会(ICLA)の世界大会が、東京の青山学院大学で開催された。なお、今回紹介する下記の3つの雑誌(刊行中)の他にも、『阪大比較文学』(大阪大学比較文学会、全7号、2003−2013)、『比較文化雑誌』(東京工業大学比較文化研究会、全6号、1982−1995)があった。
■日本比較文学会『比較文学』
Ⅰ. 基本情報
- 1 タイトル:
- 『比較文学』Journal of Comparative Literature
- 2 編集:
- 日本比較文学会
http://www.nihon-hikaku.org/index.html - 3 刊行間隔:
- 年1回
- 4 言語:
- 日本語、英語、フランス語
(日本語論文の場合は外国語、英語論文、フランス語論文の場合は日本語の要旨を付す) - 5 論文の査読手順:
- 各号編集委員会が委託した複数の査読委員の評価に基づき、委員会が採否を決定する。
- 6 一巻あたりの構成:
- 論文(5〜8本程度)
日本比較文学会賞および新人賞・選評
書評(10〜15本程度)
欧文書評(2本程度)
学会記録(支部報告を含む)
欧文・和文要旨
会則・規約、投稿規定 - 7 刊行形態:
- 紙媒体のみ
発行の1年後からは、J-STAGEで全文デジタル公開される。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/hikaku/-char/ja - 8 総目次:
- J-stage
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/hikaku/56/0/_contents/-char/ja - 9 雑誌関連事業関係
- −1 日本比較文学会賞の授与(毎年6月発表、1996年―現在)
当該期間に出版された会員(50歳未満)の著作(日本語)から優れたものに授与される賞。 - −2 日本比較文学会新人賞(毎年6月発表)
当該年度の学会誌に掲載された若手会員(35歳以下)の論文から優れたものに授与される賞
Ⅱ. 創刊年と雑誌の歴史
- 0 創刊年:1958年4月
近刊: 66巻(2024年3月発行) - 1 タイトル変更無し。
- 2 休刊無し。
- 3 発行間隔:年1回
Ⅲ. 雑誌の役割や現況
日本比較文学会は1948年5月に、東京大学(フランス文学研究室)の中島健蔵を中心に、松田穰(みのる)、島田謹二、吉田精一などが協議して設立された組織である(初代代表者は中島)。当初から、大学や専門などの垣根を超えて比較文学に関心のある作家や研究者が集まり、まだ比較文学の学問的内実が漠然としていた時代に、毎月の研究発表会を主要な行事として徐々に発展深化した。日本比較文学会の何よりの特徴は、各会員が全国学会に属すると同時に、自分が希望する地方支部(北海道、東北、東京、中部、関西、九州)にも属して、複数回の例会と年1回の支部大会に参加する権利を得ることである。現在でも各支部の活動は、大変活発である。
全国学会としての機関誌『比較文学』は、学会設立から10年目の1958年4月に創刊される。毎年春に一冊定期的に発行され、2024年現在66号に達している。査読システムは組織的に確立され、毎年査読に通る論文は応募数の30-40%程度となっており、厳しい競争である。従ってターゲット・オーディエンスは比較文学の専門研究者となっており、基本一般読者は念頭においていない。
一方で、学会設立当初から大家と若手が自由に討論する気風が重んじられる伝統から、学会誌への(博士課程在学生などの)若手の論文投稿が積極的に慫慂されており、比較文学者の育成の場ともなっている。
本雑誌は、学会の趣旨に沿って「比較文学」と「比較文化」の双方を扱う。日本比較文学会の会員は、あらゆる地域の文学研究者が主体であるため、扱われる地域も欧米のみならずアジア、アフリカ、中東、南アメリカ等、大変に広いのが特徴的である。
また1991年にICLA東京大会(於青山学院大学)がアジアで初めて開催されたことを機縁に、ICLAとの関係が緊密となり、1998年以降、日本比較文学会会員は自動的にICLAの会員となっている。機関誌『比較文学』でも、第55巻(2013年3月)以降、英語による書評も毎号掲載されている。現在では、J-STAGE(上記)を通じて、全号の論文、書評記事が無料デジタル公開されているのは、世界の学術界への大きな貢献であろう。
さらに日本比較文学会は、雑誌活動の他に共同著作を刊行していることも重要である——『近代詩の成立と展開――海外詩の影響を中心に』(1957年)、『ジャンル別比較文学論』(1977年)、『漱石における東と西』(1977年)、『滅びと異郷の比較文化』(1994年)、『越境する言の葉——世界と出会う日本文学』(2011年)。
なお機関誌『比較文学』第42巻別巻(2000年3月)は、「日本比較文学会の50年」と題して、学会設立の1948年から1998年までの記録が全て収録されており、学会の歴史を把握することが出来、大変貴重である。
■東大比較文學会『比較文學研究』
Ⅰ.基本情報
- 1 タイトル:
- 『比較文學研究』Studies of Comparative Literature
- 2 編集:
- 東大比較文學會
住所:日本東京都目黒区駒場3−8−1
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻比較文学比較文化研究室気付
URL: http://www.todai-hikaku.org
発行:すずさわ書店
住所:〒350-1123 埼玉県川越市脇田本町26-1-306 - 3 刊行間隔:
- 過去は年2回だが、現在は年1回
- 4 言語:
- 主要は日本語・英語
(論文が日本語で発表された場合は、外国語要約を掲載する。言語の種類は問わない) - 5 論文の査読手順:
- 特輯論文については各号編集責任者が査読。
一般論文については編集委員数名が査読。 - 6 一号あたりの構成:
- 巻頭言(1本)
特輯論文(3〜5本程度)
一般論文(2本程度)
展覧会&カタログ評(1〜2本)
書評(3本程度)
博士論文の審査結果要旨および公開審査傍聴記
Le Rond-Point(5本程度。学術的エッセイ、会員訃報・追悼文など)
掲載論文(日本語の場合)の外国語要約 - 7 刊行形態:
- 紙媒体のみ(デジタル公開の将来計画あり)。
創刊号(1954年)〜第60号(1991年)については、CD-ROMが発売されている(総計500頁、すずさわ書店発行)。 - 8 総目次:
- 東大比較文學会のHP上で創刊号から最新号まで公開(日本語)。
「『比較文學研究』バックナンバー総目次」
(http://www.todai-hikaku.org/comparative_literature/backnumber.html) - 9 雑誌関連事業関係
- −1 金素雲賞の授与(毎年12月発表、1982年−現在)
韓国の詩人・金素雲によって東大比較文學会に寄付された基金に基づき、比較研究室の院生や修了生で、「日本、韓国、または東アジア一般にかかわる比較文学比較文化研究の上で顕著な業績を挙げた者」に対して授与される。 - −2 展覧会&カタログ院生委員会の活動(2002年−2020年)
比較研究室の美術に関心のある院生たちが自由参加し、この雑誌の「展覧会&カタログ評」の評者を選ぶための活動を行っていた。
東京大学駒場博物館の中にある「展覧会カタログ資料室」のアーカイブを形成するための学術活動も行った。 - −3 カタルト(Catal-to)の活動(2016年から年1回−2020年)
パリで行われている優秀展覧会カタログ授賞プロジェクト(Catalpa)の活動に倣い、東京とその周辺で行われている展覧会カタログの中で優れたものを、大学院生を中心とする選考委員会が選考し、賞を授与する活動。
駒場博物館で関連展覧会(「美術展を本の世界で」2018年より年1回)は、現在も継続中。
http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/exhibition2.html - −4 若手コロキアム(2006年から年1回−現在)
博士論文執筆の最終段階にある院生2名に助成金を出し、その2名を中心とした院生組織が、12月に公開コロキアムを開催する。
2名が研究発表を行い、博士論文の主旨や目次、主要な部分を発表し、教員を含む参加者たちと自由に討論する。
「博士論文を書いた人から書く人へ」というテーマで先輩2名のミニ講演もある。
Ⅱ. 創刊年と雑誌の歴史
- 1 創刊年:1954年6月
100号:2015年6月
近刊: 109号(2024年1月発行) - 2 タイトル変更無し。
- 3 休刊無し。
- 4 発行間隔:年2回が基本であったが、近年は年1回発行に変更。
Ⅲ. 雑誌の役割や現況
1953年、比較文学者・島田謹二が東京大学大学院に、比較文学比較文化研究室(以後「比較研究室」と略記)を設立した。これが日本の大学で最も早い比較文学の研究教育組織である。
東大比較文學會はその翌年(1954年)に、同研究室の教員たちによって設立された。同コースの教員、大学院生、元教員および修了生に会員資格がある。よってこの学会の機関誌『比較文學研究』は、専ら学会員の会費で経営され、同じ研究室に集う人々の同人誌としての役割を一方でもつ。その上で広く比較文学、比較芸術、比較思想、比較文化という学問の成果を一般読書界に還元すべく、毎号ISBNを付けて一般書籍として市場に流通させている(Amazon等のネット書店でも購入可能)。本雑誌は、2015年に100号を数え、2024年に109号を発刊。今後も一年に一号を刊行予定である。
東京大学の比較研究室はこの70年間、多くの優秀な研究者を輩出し、日本における比較文学比較文化研究と教育の本拠地の一つであり続けている。岩波書店の『文学』(1933.4−1996.12 文学研究専門誌)や、學燈社の『國文学・解釈と教材の研究』(1956.5-2009.7 文学研究の教育的側面を重視した専門誌)などが次々と廃刊された後、いまだに文学研究専門誌として市場に流通する意義は高い。
本雑誌は、比較文学、比較芸術、比較思想、比較文化に関するテーマを扱っている。ターゲット・オーディエンスは、比較研究(Comparative Studies)の専門研究者であるが、一般市場に流通させているため、執筆者および編集者たちは常に一般読者も念頭においている。そのために毎号、特輯テーマを設けて数本の論文を掲載しているのが特徴的であろう。そのテーマは古今東西、バラエティに富む。
(http://www.todai-hikaku.org/comparative_literature/backnumber.html)
例えば——「バルダンスペルジェ研究」(第2号)、「児童文学研究」(第17号)「ロシア・東欧文学研究」(第22号)、「東西の抒情詩」(第33号)、「能の諸相」(第35号)、「絵画と文学」(第50号)、「音楽と文学」(第58号)、「アメリカ」(第63号)、「翻訳」(第69号)、「東アジア」(第70号)、「クレオール文学」(第72号)、「日本の詩学に向けて」(第76号)、「比較芸術論:フランス編」(第77号)、「近代文学と恋愛」(第82号)、「共通言語・支配言語と比較文学」(第84号)、「中東世界」(第87号)、「異文化接触と宗教文学」(第89号)、「雑誌メディアにおける視覚文化」(第90号)、「漢文訓読と漢学論」(第96号)、「世界文学と国民文学」(第97号)、「外地を語る、外地から語る」(第99号)、「Explication de texte」(第101号)、「「女」が語る」(第106号)、「重訳」(第107号)、「博士論文」(第108号)、「越境するアメリカ」(第109号)など――。
日本の比較文学研究が、欧米の最先端の研究を常に参照しながらも、東アジア圏の比較文学や比較詩学の確立、被支配地域の文化への注目、翻訳研究、比較芸術研究(美術、音楽、写真等)などの側面で、独自の発展を遂げていることが、もうすぐ110号に及ぶこの雑誌の特集からも分析することができるのである。
なお多くの論文は日本語で執筆されているが、執筆者の多くは何らかの外国語との二言語使用者あるいは多言語使用者である。要旨は外国語で発表されている。むしろ多くの執筆者はここで日本語での執筆を「選択」し、優れた日本語論文を書くことで、比較文学比較文化研究の成果を日本国内の一般読者に普及させることに力を注いでいると言って良い。
最後に、この『比較文學研究』は、単なる雑誌ではなく、東大比較研究室の機関誌として、比較文学比較文化の大学院レベルでの「教育」でも重要な役割を果たしている。上記のように、博士論文執筆の最終段階にある院生への助成(若手コロキアム)や、展覧会カタログの収集・保存・批評に関わる院生委員会の活動、東アジア比較文学に貢献する若手研究者の表彰(金素雲賞)などの活動である。雑誌とこれらの活動が常に緊密に連動しているため、大学院における研究と教育は大変活発であり、今後もこの良循環が継続されるだろう。この雑誌の編集委員は「紙媒体」としての雑誌に愛着があるが、今後のデジタル化も視野に入れていくだろう。なお、2023年刊行の108号では「博士論文」を特集テーマにし、日本で最も多く比較文学比較文化関連の博士論文を輩出している本研究室の、研究・教育の歴史と成果についても再検討したので、ぜひご覧頂きたい。
3 日本の比較文学雑誌——『比較文学年誌』
■早稲田大学比較文学研究室『比較文学年誌』
Ⅰ. 基本情報
- 1 タイトル:
- 『比較文学年誌』Annales de Littérature comparée
- 2 編集:
- 早稲田大学比較文学研究室
〒162-8644 東京都新宿区戸山1-24-1 早稲田大学文学学術院
早稲田大学比較文学研究室 - 3 刊行間隔:
- 年1回
- 4 言語:
- 主要な言語は日本語、英語
目次は、毎号、和文目次と欧文目次(記事ごとに英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語) - 5 論文の査読手順:
- 早稲田大学比較文学研究室の研究員の論文については査読なし。研究員以外の論文については、研究員の推薦による。ただし、2015年度以降、大学院修士課程の学生については、査読制度を設けた。研究員による査読を行なうか、あるいは研究員を通じて専門家に依頼を行なう。
- 6 一号あたりの構成:
- 和文目次
論文 (毎号5篇前後)
研究ノート (資料紹介など)
研究余滴 (随時掲載、研究者のエッセイなど)
書評と紹介 (毎号4篇前後)
活動記録
執筆者紹介
比較文学研究室宛寄贈図書目録
彙報 (比較文学研究室の活動についての文章形式での報告)
編集後記
欧文目次 - 7 刊行形態:
- 紙媒体のみ
- 8 総目次:
- 最新のものは、第56号(2020年3月刊行)に「『比較文学年誌』総目次(第一号~第五十五号)」として掲載。
- 9 雑誌関連事業関係:
- 公開講演会
月例発表会
Ⅱ. 創刊年と雑誌の歴史
- 1 創刊年 1965年3月
近刊:第59号(2023年3月) - 2 タイトル変更なし。
- 3 休刊なし。
- 4 発行間隔:年1回
Ⅲ. 雑誌の役割や現況
『比較文学年誌』は、早稲田大学比較文学研究室の紀要として1965年3月に創刊された。第1号の「後記」には、「「比較文学」「比較文学研究」「比較文化」と並んで、わが国の比較文学研究に寄与することができたら、望外の喜びである」と記されている。
比較文学研究室は、1962年10月に早稲田大学文学部を拠点とし、佐藤輝夫を中心として、運営委員9名、研究員13名をもって発足した。その後、文学部以外の教員も含めた、早稲田大学全体の日本文学、英文学、フランス文学、ドイツ文学、ロシア文学、中国文学、美術史学、演劇学の研究者を研究員に迎えて活動が行なわれた。
早稲田大学の比較文学研究は文学部創設者の坪内逍遙においてその端緒が開かれており、その伝統は、本間久雄、柳田泉、木村毅、吉江喬松らを通じて脈々として受け継がれてきた。早稲田大学比較文学研究室の開設はその伝統をさらに引き継ぐものである。
早稲田大学比較文学研究室においては、年に5、6回開催される月例発表会を中心として活発な研究発表活動が行なわれたほか、大学内外からゲストを招いての公開講演会が年に2回のペースで開催された。公開講演会については、文学研究者のみならず作家を招いての講演会となることもあり、多くの学生が聴衆として集まることもしばしばであった。『比較文学年誌』は、「活動記録」や「彙報」においてそれらの行事の様子を記録している。
早稲田大学比較文学研究室の最も大きな特徴は、日頃は専門別に分かれて活動をしている研究員が、時間を見つけては三々五々研究室に集まり、専門分野の違いを超えて文学論議に興じるというような、自由でサロン的な雰囲気であった。『比較文学年誌』はそのような研究室の性格を反映しており、研究員が投稿する論文については、査読制度などはないかわり、字数なども気にせずに自由に書ける場としての役割を果たしてきた。
また、論文のかたちにまとめられない、資料紹介や研究動向などについての文章は、随時「研究ノート」「研究余滴」のかたちで発表されている。
2012年4月に早稲田大学の文学学術院(Faculty of Letters, Arts and Sciences)内に総合人文科学研究センター(Research Institute for Letters, Arts and Sciences)が設置され、早稲田大学比較文学研究室は、その研究部門の一つとして位置づけられるに至った。
近年は総じて研究員が多忙をきわめ、研究室に集まって談笑するような時間を見出せなくなっている。そのため、月例発表会や公開講演会といった行事を開催することが難しくなっているが、『比較文学年誌』の刊行は順調に続けられている。なお、研究室においては、長年にわたって大学院文学研究科に比較文学コースを設置することが議論されていたが、現在に至るも実現には至っていない。ただ、1954年以来、共通選択科目として「比較文学」の講義が設置されており、これは現在も春秋各学期に1科目ずつのかたちで継続している。
[源貴志]
【追記】
源貴志先生におかれましては、2023年12月にご逝去されました。
このお原稿は、Revue de littérature comparée 掲載の雑誌特集記事のために、早稲田大学比較文学研究室『比較文学年誌』の記述分の担当を快諾され、2021年に書かれたもの(日本語の原文)です。
源先生は早稲田文学の日露比較文学研究と教育を長く牽引し、日本比較文学会理事としても活躍され、多くのお仕事をなさいました。日本の比較文学界にとっての喪失の大きさに呆然と致します。
2024年3月発行の『比較文学年誌』第60号に、源先生への追悼特集が掲載されています(「源貴志先生を送る」伊東一郎、中島国彦、小沼純一、河野貴美子)。早稲田大学において全力を尽くされた先生のお姿を偲ぶことができます。
改めてここに源先生に心からの敬意と感謝を捧げると共に、ご冥福をお祈り申し上げます。
[今橋記]