2019年5月 8日

「ある編集者のユートピア」展 (下)

会場:世田谷美術館
会期:2019年4月27日(土)~6月23日(日)
評者:佐々木悠介
寸評: 第Ⅲ部は、小野が晩年に講師として通った高山建築学校と、さらにそこでの講師仲間であった石山修武の「世田谷村」(2001年)の展示だった。私自身は、小野二郎が建築分野にもこれほど深い関心と関わりを持っていたことを知らなかったので、この第Ⅲ部はまったく新しい発見になった。と同時に、ここまでくればこの展覧会の意図するところがはっきりしてくる。つまりこれは小野二郎の業績を回顧するための展示という以上に、小野が生きていたら見届けたであろう広大な文化的、芸術的風景を描き出そうとする展覧会なのである。だからこそ、ある時期小野と密接に関わった人たちがその後に成し遂げた仕事、つまり晶文社のさまざまな刊行物とか、世田谷村とか、そういったものが大事になってくるのである。

 第Ⅲ部の最後に、1980年の高山建築学校で小野が行った、15分程度のミニ講義の映像があった。『ガリバー旅行記』から始めてベラミーへ、モリスへと拡げながら、ユートピア思想とは、労働とは、芸術とは、とめまぐるしく話題を転じていく。冒頭でスウィフトに言及されるのを聞いて、すぐに堀大司の影響を思った。本展第Ⅱ部の年譜に、一高の「英語の担当教官に島田謹二と堀大司がいた」とあったのが、ここで繋がったのである。
 なお、この講義映像に見る小野二郎はすでにだいぶメートルが上がっていたのかも知れなくて(本展で小野が一升瓶を抱きかかえるようにして座っている高山建築学校の写真を観た後では、そう無理な想像というわけでもない)、話があちこち飛んだり、勢いで締めくくったりしたところはあるようにも見受けられたが、この映像を二回通して観て、やはり生前の小野二郎に会ってみたかったと強く思った。

 われわれが本展によって考えを改めなければならないのは、このようなことであろう。つまり小野二郎はモリス研究者として大学で教える傍ら、晶文社「も」やっていた、などというのではなくて、かくも多才でエネルギッシュな人物にとって、大学教員としての仕事は、日々の労働(ただしそれはモリス主義者のもっとも崇高な意味での「労働」だが)の一つに過ぎなかったのだ、ということである。

 このような、お客さんの入らなそうな展覧会を企画した世田谷美術館に、拍手を送りたい。これまでにも『フェリックス・ティオリエ』展のように、誰も知らない写真家の展覧会を敢行されるような(無茶な)ところはあったにせよ、本展の「閑古鳥」ぶりはきっとそれを凌駕するだろう。それでも本展は、ある種の人文系学術研究が20世紀後半の日本における出版界や芸術・文化活動と密接に関わり、しかも潜在的な社会運動ですらありえたことを、見事に示したと思う。

(文中敬称略)

「ある編集者のユートピア」展 (上)

会場:世田谷美術館
会期:2019年4月27日(土)~6月23日(日)
評者:佐々木悠介
寸評: 3月に「田沼武能写真展」を観に行って本展のことを知ったときは、少なからず驚いた。
 小野二郎(1929ー1982)と言えば、ウィリアム・モリスの研究者であり、われわれにとっては比較文学比較文化コースの大先輩であり、とくに狭義の「文学」の枠におさまらない分野をやっている者にとっては、大切な先達である(げんに私の研究室にも、書架の目立つところにその著書を何冊か並べてある)。明治大学で教鞭を執られ、同時に晶文社を興して出版界にも足跡を残した、という程度のことは知っていたが、展覧会の対象になる(それも文学館ではなく美術館の)とは思えなかった。しかし、面白い企画を次々と繰り出す世田谷美術館のことだから、きっとなにかあるのだろうという漠とした期待を抱いて、会期の三日目に足を運んだ。

 展示は三部構成で、さらに各部が数章に分けられている。
 第Ⅰ部は研究者としての小野と、ウィリアム・モリスを取り上げている。そのうち第2章には印刷博物館の所蔵するケルムスコット・プレス(ウィリアム・モリスの印刷工房)刊行の書物が、何冊も並んでいた。これだけまとめて実物を見ると、そのデザインの傾向を肌で感じることができる。なお、ケルムスコット・プレスについては明星大学がかなりのコレクションを持っているそうで、同大学で今年いっぱい、展示替えをしながら公開されているということを、このブログに大西さんが書かれた記事で知った。

 第Ⅱ部は、修士課程修了後の2年間の弘文堂勤務と、その後の晶文社での活動をとおして編集者としての小野二郎に光を当てている。敢えて言えば、この中の第2章は少々「晶文社」展の色が強すぎたかも知れない。たしかに小野が親友の中村勝哉社長と二人で興したのが晶文社だが、すべての本に同じように関与したわけではあるまい。そもそも没後に刊行された本も並んでいる。われわれとしてはもう少し、小野がどの本にどのように関与したのかというのを知りたかった。
 同社の面白いのは、人それぞれ抱くイメージが違うくらいに様々な分野の記念碑的な書籍を刊行してきたことで、たとえば私なら、中平卓馬の評論集『なぜ、植物図鑑か』、スーザン・ソンタグの『写真論』、それにリチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』(この藤本和子訳は、ブローティガンを原書で読んだ後でもやっぱり手に取りたくなるような、不思議な魅力に満ちた翻訳だが、管見では『鱒釣り』は藤本の訳業の最初のもので、いったいどうしてこのようなキャスティングが可能だったのかと、感嘆の念すら覚えずにはいられない)とか、そういったものがまず真っ先に思い浮かぶ。
 そう言えば、『ボブ・ディラン全詩集』も晶文社刊であったことを、今回の展覧会で認識させられた(僕はボブ・ディランをよくわかっていないので)。少々脱線すると、本郷の文学部のウェブサイトに卒業生インタビューのコーナーがあって、今をときめく新政酒造の佐藤祐輔社長が登場している。曰く、卒論でボブ・ディランを取り上げたら、「あのころはボブ・ディランを文学と認めてくれなくて、ぼろくそに言われました。ところが今年、ボブ・ディランがノーベル賞をもらいましたね。時代が私に追いついたんでしょうか(笑)」(このインタビューはなかなか傑作なのでぜひご覧いただきたい)。しかし考えてみれば、同氏だって卒論を書かれる頃にはボブ・ディランを英語で読んだかも知れないけれども、きっとその精読プロセスの最初のほうに晶文社の『全詩集』があったはずだ。とすれば、時代が晶文社に追いついたとも言えるではないか。
 しかしだからこそ、晶文社のあの一連の70年代から80年代初頭の刊行物に、小野がどのように関わったのか、企画の段階で関与したのはどの書籍なのか、是非とも知りたかった。前述のもので言えば、ソンタグの訳者、近藤耕人は小野に謝辞を書いているが、『アメリカ鱒釣り』訳者あとがきに小野二郎の名前は見当たらない。

(下に続く)

2019年4月10日

[おすすめ]ウィリアム・モリス--理想の書物を求めて--

会場:明星ギャラリー(明星大学日野校 資料図書館2階)
会期:2019年3月22日~12月21日(3期に分けて展示替えあり)
評者:大西由紀
寸評:

非常勤先の大学で開催中の貴重書コレクション展をご紹介します。

明星大学では、ウィリアム・モリスによる私家印刷工房、ケルムスコット・プレスの出版物の大部分を所蔵しているそうで、それを年代順に約20点ずつ、3期に分けて展示するコレクション展が始まりました。

第I期の現在展示されているのは、『輝く平原の物語』(1891年)に始まる初期の刊本18点に、全会期を通して展示予定の『チョーサー著作集』(1896年)。展示ケースの背景にもモリス・デザインのファブリックが使われていて(これは賛否分かれそうですが)、どっぷりとモリスの世界に浸れます。しかもフラッシュなしなら展示室内でも写真を撮り放題。

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これは訪問時間帯にもよるでしょうが、平日の授業時間中に見に行ったわたしの場合は、展示室をほぼ貸切状態で、ガラスケースを舐めるようにじっくりねっとり見て回れました(注:舐めてません)。活字部分の紙面の凹み具合とか、オーナメントのつながりとか、気になるところを気の済むまで眺めさせてもらえたのがありがたかったです。

それだけに残念だったことのひとつが、特別展示のアルビオン印刷機(ミズノプリテック株式会社所蔵)にかかっていたのが、ケルムスコット・プレスっぽい書体ではなかったことです。同じものは用意できないにしても、もう少し雰囲気の近いものか、ごく定番の活字にしておけば、と思いました。もうひとつ、展示の英文キャプションで、アポストロフィーを使うべきところがいわゆる「マヌケ引用符」になっていたのだけど、美しい書物にまつわる展示でコレはありえない。とはいえ、キャプションの印象なんて一瞬で上書きされるくらいに、出品物の物量感が圧倒的ではありました。

一部出品物の図版を含んだ無料の小冊子と、全会期分の出品リストに加えて、無料のオリジナルグッズもいろいろ用意されています。『黄金伝説』(1892年)の紙面を使ったブックカバー、装飾頭文字を使った栞(全10種類)、特製ラベルデザインのミネラルウォーターなどなど。SNS投稿や、3つの会期すべてに来場してスタンプを集めた場合にも、グッズのプレゼントが予告されています。

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ブックカバーをA5サイズ、厚さ約1cmの本にかけてみました。右開きの本の表紙側にタイトルが来るようにレイアウトされています。

入場無料、要身分証提示。

なお、学期はじめの現在、多摩モノレールは一部時間帯でたいへん混雑します。ご来館の際は、近隣大学の1・2限開始時刻(9:00、10:45~50)の前後を避けていらっしゃることを、強く強くお勧めします。

大学プレスリリース

資料図書館からのお知らせ

2019年3月14日

[おすすめ]福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ

会場:東京国立近代美術館
会期:2019年3月12日--5月26日
評者:松枝佳奈
寸評: 日頃、19世紀から20世紀初頭までのロシア美術、とりわけリアリズム絵画や印象派の画家たちの作品に親しんでいる筆者にとって、日本近現代の前衛芸術はどうしても縁遠く、あまり馴染みのないものでした。高度な抽象性を備えた前衛芸術の作品のどこに注目して鑑賞すればそのおもしろさや魅力を感じとることができるのか、なかなか理解できずにいました。恥ずかしながら、1930年代の日本にシュルレアリスムを紹介して前衛美術運動のリーダーとして活躍し、2018年に生誕120年を迎えた画家・福沢一郎(1898-1992)についても、何も知らなかったのです。
 しかし本展で紹介された福沢の作品群は、筆者のように日本の前衛芸術をほとんど知らず、基本的な情報や予備知識のない鑑賞者に対しても何らかの感興をもたらし、思索をうながす迫力を持っているといえるでしょう。その源は、本展で提示されているとおり、まず社会や時局、人間一般に対する鋭い批評性や、知的な機知と風刺に富んだ主題の選択です。福沢自身は、特定の思想や党派には与していないと公言していたようですが、それは思想・言論弾圧や戦争という日本の芸術家たちが置かれた過酷な状況を切り抜け、芸術表現の自由を守るための方便だったのではないかと思わざるを得ません。彼の作品を見れば、労働者や被差別者、弱者、女性、子どもなどの一般の市民とともにあろうとする姿勢や、支配者や権力に対する反抗精神、人間と社会が抱える根源的な問題に対する関心や批判がかなりストレートに表現されているのは明らかです。
 油彩87点、素描9点、写真7点の計103点から成る本展は、多彩な福沢の活動と、以上のような彼の作品の特徴を全面的に押し出すことに成功していると思われました。また本展の出品リストを兼ねて制作されたユニークな「謎解きシート」も、来館者が福沢の作品への関心や理解を深める大きな手助けとなっています。
 さらに本展に足を運び、福沢の作品に一挙に触れて実感したのは、〈人間嫌い〉(1928)や〈メトロ工事〉(1929)などの福沢の初期作品ですでに見られる斬新かつ優れた構図や、中期以降により洗練されてくる色彩の表現が、同時代の他の前衛芸術家と一線を画していたことです。たとえば主題が右斜め上に向かって上昇するように描かれる構図や、人物や風景の描写でしばしば大胆に用いられる淡いトーンの緑色、中期から後期の作品で頻繁に使用された独特な色調の桃色、鮮やかで刺激的な朱色などが挙げられるでしょう。これらは、鑑賞者の視覚のみならず、聴覚や感情、知的感覚までも揺さぶるエネルギーに満ちています。そして晩年に至るまで、シュルレアリスムやプリミテヴィズムなど自在に変化する画風と表現手法や、ダンテの『神曲』や日本の古典をはじめとする古今東西の文学や文化、社会を貪欲に自らの芸術作品の主題へと昇華させていく福沢の飽くなき意欲に驚かされました。ただしこのような福沢の芸術に対する旺盛で挑戦的な姿勢や、さまざまな表現手法や主題を自らの手中に収める器用さのために、かえってその画業の全体像や特徴をとらえることが困難になり、日本近現代美術史のなかで正当に評価されにくい状況が生まれているのかもしれません。
 それでも本展を鑑賞したあとに、同館2階から4階の常設展示を改めて観ると、福沢の作品や表現と比較することで、他の同時代の芸術家たちの作品を能動的に愉しんで鑑賞することができ、日本の前衛美術への関心や理解が深まったように感じました。
 本展は、比較文学比較文化研究室の修了生で、同館美術課研究員の古舘遼さんが初めてキュレーションに携わられ、開催にご尽力されました。展覧会開催直後のお忙しいなか、本展の内容や福沢の作品の魅力を丁寧にご紹介いただき、舞台裏など多くの貴重なお話をお聞かせくださいました古舘さんに改めて御礼申し上げます。

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2018年9月22日

CatalTo2017 授賞式・パーティー開催〔5〕

日時:2018年7月27日(金)16:00-19:00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス 18号館4階コラボレーションルーム1およびオープンスペース
出席者:学内外関係者45名
活動報告:(〔4〕のつづき)

◎CatalToカタログを持って、出かけま賞with漱石(鎌倉文学館)
『夏目漱石生誕150年特別展 漱石からの手紙 漱石への手紙』
・プレゼンターから
 可愛らしいデザインと手に取りやすいサイズ感に惹かれた。巻末には、鎌倉周辺の漱石ゆかりの地の地図が掲載され、そのまま周辺を散策することも可能である。内容ももちろん充実しており、文学研究者にとっては大事な一時資料となる手紙が、翻刻されているのは大変便利である。

・受賞者から(鎌倉文学館・小田島一弘)
 鎌倉文学館は観光地にあり、旧前田侯爵家の別邸を再利用しているため、年10万人ほど訪れる来館者のうち、7割程度は文学とは関係のない方である。そのため、予備知識なしに文学に親しんでもらえるような展示を心掛けている。
 手紙という題材は、作家の心を知ることのできるものであるため、一般の来館者にも親しみやすいテーマであるといえる。なかでも、漱石は筆まめであり、明治時代の人物のなかでは現代と同じような(読みやすい)手紙を書く人物である。
 鎌倉文学館は展示室が狭く、100点ほどの展示品を置くともういっぱいになってしまうので、テーマをしぼって展示を行う必要がある。そこで、テーマとして漱石の手紙が選ばれた。また、漱石研究が盛んに行われ、資料がよく保管されており、その半生を手紙で辿ることができる人物である点もテーマにふさわしかった。
 鎌倉文学館のカタログは5~6年前から、A5サイズ(横)を採用している。これは、観光の途中で文学館によったお客さんにも買ってもらえるように、女性のハンドバッグに収まるサイズを意識してのことだ。A5の横置きなのは、縦置きにするとさみしいスペースができてしまううえ、資料の見方の順番がわかりにくくなってしまうためである。
 また、このカタログで工夫した点は、ただ単に手紙を翻刻すだけではなく、手紙本体の文字と見較べて読むことができるように印をつけたとことである。また、手紙のなかで人物名が出てきたときは、簡単なプロフィールをつけ、文学に詳しくない人にも解りやすいように心を配った。

※CatalTo国際交流賞(東京藝術大学大学美術館)
『シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生』
 文化財のクローンを作り、芸大美術館のなかで展開するという、学術と展覧がうまく融合した展覧会であった。そのうえ、日中両国の緊密な協力も窺うことができた。
 当日は、関係者の都合で授賞式はご欠席であったが、このカタログの価値を授賞式で
皆さんにご報告した。


◎閉会の辞(東大比較文學会会長・菅原克也)
 東京大学にはキャンパスがいくつかあるが、そのなかで駒場は「文理融合」「inter disciplinary(学際/専門を跨ぐ)」といった特徴を持っている。その駒場を拠点とする東大比較文学会から出す賞は、なにかしら「跨いだもの」であるべきだと考えるが、今回の受賞カタログを見てみると、多彩であり、文理融合しており(狩谷掖斎から自転車まで)、対象とする年齢層も幅広く、地域性にも富んでおり、大変駒場らしい賞であるといえる。また、学芸員やデザイナーの方々の話から、カタログを作るという行為もまた、様々な領域・専門・関心の人を巻き込んだものであることが実感できた。

 CatalTo 2017 記念パーティーには、学芸員・デザイナーの方々をはじめ、授賞式参加者の多くが出席した。入口付近のテーブルには、CatalTo 2017の受賞カタログのほか、惜しくも受賞を逃したノミネートカタログ、さらには昨年度のCatalTo 2016の受賞カタログも飾られた。彩り豊かなカタログを手に取りながら、話に花が咲く光景も見られた。部屋の奥には軽食と飲み物が用意されており、グラスを片手に、より身近な距離感で、学芸員・デザイナーの方々と交流が行われた。また今年度の本部長・松枝佳奈氏、院生委員会委員長・朴承民氏からの挨拶もあり、副委員長・李範根氏をはじめ、大奮闘のメンバーに皆でその労をねぎらった。
 最後に板橋区立美術館の松岡氏より、「飛び入り」のご挨拶を頂き、何よりもこの賞が若い院生たちの活動から生まれていることを、現場の人間として嬉しく思うとのお言葉があった。それはCatalTo本来の意義をご理解下さっているというメッセージとして、一同何より嬉しく伺ったのである。
こうして楽しい夏の夕べは、今年もまた盛況の裡に幕を閉じたのであった。
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(2018年9月22日 文責:石川真奈実)

CatalTo2017 授賞式・パーティー開催〔4〕

日時:2018年7月27日(金)16:00-19:00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス 18号館4階コラボレーションルーム1およびオープンスペース
出席者:学内外関係者45名
活動報告:(〔3〕のつづき)

◎CatalTo一般にオススメで賞(目黒区立美術館)
『ヨーロッパの木の玩具(おもちゃ)展――ドイツ・スイス、北欧を中心に』
・プレゼンターから
 第一に、可愛らしく色鮮やかな木の玩具の表紙が魅力的である。手に取って開いてみれば、自由なレイアウトでのびのびと、玩具の写真が掲載されている。それも、ただ玩具の写真があるというのではなく、どうやってその玩具を動かすのかが解るように工夫されていて、カタログのうえで自分が玩具で遊んでいるような気持になれる。もちろん、玩具の主要工房・年譜・地図・論文も掲載されており、情報量も多く、簡潔ながら要点を押さえたカタログである。目黒区美術館は昨年も総合賞を受賞しており、昨年に引き続き、とても素晴らしいカタログを作成されたと思う。
 可愛らしい表紙のこのカタログは、幅広い人々に訴えかけ、「カタログを手に取ること」への入り口となるものであるといえよう。

・受賞者から(目黒区立美術館・加藤絵美)
 昨年は、目黒区美術館の開館30周年であった。また、この展覧会は、アトリエ・ニキティキ(玩具の会社)の協力のもと行われた3回目の展覧会である。(ニキティキさんとは、スイスのネフ社で作られているリボン型の積み木(ネフスピールなどを中心とする)の遊び企画を毎年行ってきたという繋がりがある)
この展覧会は、現代の木の玩具の多様性を切り口とした。展覧会には、積み木やパズルといった遊び方を紹介する章もあった。また、ヨーロッパで木の玩具が盛んに作られるようになった背景として、幼児教育の祖・フレーベルの提唱した知育玩具「恩物」にも触れた。日本で初めて幼稚園を開いた御茶の水女子大学からも作品を借りた。さらに、技術的な側面にも着目した。そこでは、ドイツのエルツ地方に伝わるライフェンドレーンなどを取り上げた。
(くるみ割り人形などが有名)エルツ地方を専門とする先生の協力も得た。展覧会では、実際にエルツ地方から職人を招き、ライフェンドレーンの機械も輸入し、実演を行った。
カタログに関しては、商品カタログにならないように注意した。たとえば、現代の玩具と古い時代の玩具を融合していることを示せるように工夫した。
◎CatalToデザイン賞(サントリー美術館)
『六本木開館10周年記念展 国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》 修理後初公開 神の宝の玉手箱』
・プレゼンターから
 まず、表紙特殊印刷された蒔絵手箱の光沢・質感に目を奪われた。手に取ってカタログを開いてみると、右、左と二段階に開くという特殊な装幀をしており、その開け方はまるで手箱の蓋を取る動作であるかのようだった。このカタログは、図版の質・解説が充実していることに加えて、カタログが掲載されている写真を眺める図録に止まらず、作品を身体的に味わう手立てにもなり得ることを証明していよう。

・受賞者から(サントリー美術館・佐々木康之)
 この展覧会は、六本木に移動してから10周年を記念したものであった。そこで、サントリー美術館の所蔵品のなかで唯一の国宝である「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」を中心とした展覧会・カタログを作成しようとしたいと考えた。(ちょうど、浮線綾螺鈿蒔絵手箱を修理したタイミングでもあったため)
 七宝のなかでも手箱は豪華であり、その手箱のなかでも鎌倉期のものは豪華であり、その鎌倉期のなかでも「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は特別なものであるといえよう。展覧会名には、一般の人にもキャッチ―な「玉手箱」の語を用いた。
 日本人はそもそも箱が好きである。蓋があり中身が解らないことから、呪術にも用いられ、神への奉納品にもなり、もちろん普段の容れ物の役割も果たしてきた。
 カタログでは、玉手箱を開けることを身体的に体験してもらえるような工夫を凝らした。また、浮線綾螺鈿蒔絵手箱は沃懸地(いかけじ)という金の粉末を蒔き詰めた手法が用いられているため、その色を再現するのは苦労した。さらに、カタログを手箱に見立てたかったので、外側にはなるべく文字を入れないという工夫をした。

(〔5〕につづく)
(2018年9月22日 文責:石川真奈実)

CatalTo2017 授賞式・パーティー開催〔3〕

日時:2018年7月27日(金)16:00-19:00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス 18号館4階コラボレーションルーム1およびオープンスペース
出席者:学内外関係者45名
活動報告:(〔2〕のつづき)

◎CatalToオリンピック文化プログラム賞(小平市平櫛田中彫刻美術館)
『特別企画 メダルの魅力』
・プレゼンターから
 2020年の東京五輪に向け、政府および東京都のレベルで、オリンピックに関わる文化プログラムを展開することになっている。その文化プログラムに参加している展覧会を昨年から探していた。そのなかで見つけたのが、薄いにも拘わらず充実した本展覧会カタログであった。
 この展覧会は、近代から現代にいたるまでの日本のメダル彫刻を150点ほど集めたものである。オリンピック文化プログラムのなかで、「メダル」という「ど真ん中」を取り上げた企画力の高い展覧会となっている。岩村透の作らせた日本近代では最初の方と思われる賞のメダルが含まれており、水準の高いものであったことが窺われる。

・受賞者から(小平市平櫛田中彫刻美術館・藤井明)
 平成26年に藤井浩祐という彫刻家の展覧会を行ったことがあるが、藤井浩祐はメダル・筆皿・文鎮など多種多様な作品を残している人物であった。展示品を借りに行った際に、藤井浩祐以外のメダルも見せてもらえた。日本では、昭和初期にスポーツが盛んとなった結果、近代の彫刻家の手でメダルが作られるようになった。メダル独特の光沢、手にのせた感触、丸・四角というメダルの形のなかで工夫を凝らしたデザインなどの、立体彫刻とは別のメダルの魅力を感じ、いつかメダルの展覧会を行いたいという思いが芽生えた。
 メダル蒐集家の協力も得て、今回の展覧会開催に漕ぎつけた。しかし、小平市平櫛田中彫刻美術館は2年に1度特別展を行うことになっており、2017年は谷間の年で、あまり予算をかけることができなかった。そのため、カタログのメダルの写真など、撮影はすべて自ら行った。
 また、メダルとはもともと受賞者がいるものである。受賞者は、メダルの作家やデザインにはあまり目を向けない。それがいったん美術コレクターの手に渡ると、メダルの作られた契機よりも、作家やデザインを重視するようになる。持ち主によって価値が変化するという意味では、メダルには宗教芸術と似たような機能があるようにも思われる。

◎CatalToクロスジャンル賞(自転車の世紀展事務局)
『自転車の世紀展(THE CENTURY OF BICYCLE)』(郡山市立美術館/茅ヶ崎市美術館/佐倉市立美術館)
・プレゼンターから
 誰にとっても身近な自転車を機軸に、美術・写真・漫画・生活文化・テクノロジーといった様々なジャンルへと見る者を誘う、自転車の文化の奥深さを紹介した展覧会であった。この展覧会カタログを推薦した理由は以下の三点に集約できる。一つ目は、様々なジャンルと自転車の関わりが丁寧に述べられている点である。二つ目は、大人から子供まで楽しめるレイアウトや文章である点が挙げられる。三つ目は、巻末にまとめられた自転車の歴史が充実している点である。様々なジャンルに跨ったカタログであるため、読者がもともと持っていた興味関心から、さらに新たなジャンルへと誘っていく魅力がある。

・受賞者から(郡山市立美術館・佐藤秀彦)
 昨年は、自転車が発明されてから200周年という記念すべき年であり、三箇所の美術館で協力し、展覧会を行った。展覧会は、①自転車の歴史、②描かれた自転車(19世紀の鮮やかなポスター、明治時代の自転車など)、③現代の自転車ファッション、④自転車の未来(最新の電動アシスト付き自転車やスバルがモーターショーに出したコンセプトバイクなど)という四つのパートから成っていた。
 この展覧会カタログは、小中学生でも買える価格設定にするため、むだのないB5変形のサイズを採用するなどし、1000円での販売を実現した。各章のアイコンを自転車のデザインにし、右上の角をめくっていくと自転車が動くぱらぱら漫画になっている遊び心もある。また、来場者と自転車を結び付けるため、地元の自転車工場の見学会や、変わった自転車の試乗会、自転車で市内を巡る催しなども開催した。
 自転車は、シンプルかつミニマムなデザインであるが、人が跨ってペダルを漕がなければ完成しない。だからこそ、これからも発展の可能性がある乗り物であり、21世紀は自転車リバイバルする「自転車の世紀」になるかもしれない。

(〔4〕につづく)
(2018年9月22日 文責:石川真奈実)

CatalTo2017 授賞式・パーティー開催〔2〕

日時:2018年7月27日(金)16:00-19:00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス 18号館4階コラボレーションルーム1およびオープンスペース
出席者:学内外関係者45名
活動報告:(〔1〕のつづき)

◎CatalTo文学展賞(文京区立森鷗外記念館)
『特別展 明治文壇観測――鷗外と慶応3年生まれの文人たち』
・プレゼンターから
 これまでの鷗外研究とは異なった、人的交流という観点からの森鷗外に関する展覧会であった点に特色があったといえよう。『めさまし草』において批評された作品の初出がどの雑誌であったかをまとめた表や、初めて翻刻された資料などがとても充実している。本カタログは、既存の鷗外研究書には載っていなかった情報も多く収録され、カタログという枠を超え、研究書と呼ぶべき価値があると思う。

・受賞者から(文京区立森鷗外記念館・塚田瑞穂)
 この展覧会は、鷗外記念館の5周年を記念するものであった。鷗外記念館は、「森鷗外」という個人名を冠した文学館であるため、展示内容について「どうせ鷗外のものだ」という印象や、「一度行けばそれでいい」という思いを来館者に抱かれてしまう懼れがある。そのような思いを拭い去るため、特別展とコレクション展を年2回行い、いつ来ても「楽しい」、「変っている」文学館を目指している。
 また、昨年は正岡子規・夏目漱石の生誕150周年であったため、それにちなみ、「慶応3年生まれ」の人物に着目し、『めさまし草』を一つの柱に据えた。この展覧会では、過去のある一点に焦点を当てるというよりは、さらに昔から現代まで繋がる時間を表現したいという思いがあった。そのため、デザイナーの方との相談のなかで、カタログのデザインには「渦」を採用し、カタログにおさめられた年表も何段階かの帯状にすることによって時間の流れを表現した。(当初は蛇腹の年表を作る予定であった)袖にかかるほど多くの情報を詰め込んだカタログである。

◎CatalTo手のぬくもり・こだわり賞(板橋区立美術館)
『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』
・プレゼンターから
 タラブックス出版社は、手工芸品のように美しい本を作ることで有名なインドの出版社あるが、それ以外にも、少数民族のアーティストによるワークショップを行い、彼らに著作権の概念を教え、正当な報酬を得られるようにするなどの社会的な貢献も行っている。
 このカタログはスリーブに入っているが、スリーブから取り出すとカラフルな世界が顔を出す。カタログの中身は、写真、タラブックスの作品リスト、創業者のインタビューなど盛りだくさんである。

・受賞者から(板橋区立美術館・松岡希代子)
 タラブックスの展覧会を行った時期は、本来、板橋区立美術館は改修のため、閉館しているはずであった。しかし、改修の時期が延び、急遽開催することになった展覧会であった。なぜ、そんなに急にタラブックスの展覧会を開催することができたかといえば、その秘密は板橋区立美術館が開館3年目から続けてきた絵本の原画展(今年で38回目を迎える)にある。絵本の原画展は、展覧会のメインストリームではないが、板橋区立美術館も「末端」の美術館であり、その「末端」であるがゆえの「すみっこ力」を活かした展覧会であるといえ、そのなかで世界中のイラストレーターや出版社と密な関係を丁寧に築きあげてきたからであった。2013年には、タラブックスの中心人物であるギータ・ウォルフさんを招聘し、イラストレーター向けのワークショップを開いたこともあった。
 そのため、タラブックスの展覧会を行いたいという企画を持ちかけたときも、話はスムーズに運んだ。タラブックスの出版物の3割程度は、木綿の古着を再利用した紙に、シルクスクリーンで刷った手作りものであり、タラブックスの代名詞のようなものであるため、この展覧会のポスターは、インドにてシルクスクリーンで刷ることに決まった。そのポスターの効果は絶大であり、一か月に18000人の来場者、3100冊の図録売り上げを記録した。


(〔3〕につづく)
(2018年9月22日 文責:石川真奈実)

CatalTo2017 授賞式・パーティー開催〔1〕

日時:2018年7月27日(金)16:00-19:00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス 18号館4階コラボレーションルーム1およびオープンスペース
出席者:学内外関係者45名
活動報告:16:00〜18:00 CatalTo 2017授賞式
(於:東京大学教養学部駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1)
18:00~19:00  CatalTo 2017 記念パーティー(於:東京大学教養学部駒場キャンパス18号館4階オープンスペース)
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 CatalTo 2017授賞式では、受賞カタログの作成に携わられた担当学芸員の方々、デザイナーの方々をお招きし、展覧会開催およびカタログ作成にまつわる現場のお話を伺った。また、先日のCatalTo 2017にて、受賞カタログを推薦した教授・院生が中心となって、それぞれの受賞カタログの魅力的な点を、現場の方々に直接お伝えする時間も設けられた。日ごろは、知ることの叶わない生の声を聞かせていただける貴重なひと時であった。
以下は、開会の辞、それぞれの受賞カタログへのプレゼンテーションと、担当学芸員・デザイナーの方々のお話、閉会の辞をまとめたものである。(以下、敬称略とさせていただきます)

◎開会の辞(東京比較文學会編輯委員 CatalTo担当・今橋映子)
 東大比較文学会の機関誌である『比較文學研究』に、展覧会カタログ評が掲載されるようになって20年近くが経つ。現在は東京近郊の展覧会を、研究分野に近い博士課程の院生が執筆することが多いが、その展覧会と執筆者選定のための組織として、院生委員会が存在する。その院生員会の10周年記念の際、CatalPa(パリ周辺の展覧会カタログを勝手に表彰する活動)が話題に上り、それの東京版・CatalToの開催へと話は進んでいった。
 一昨年に試行され、昨年、晴れて第1回CatalToが開催された。今年は第2回となる。観客のひとりひとりとして、研究の興味関心に基づいて、カタログを選定した。選定対象となったカタログは、駒場美術博物館展覧会資料室に蒐集されているものを主としている。駒場美術博物館展覧会資料室には、分野を跨ぐような、他の分野と手を結ぶことで新しい視界を拓くような、専門性の高いカタログが、(蒐集できる数にかぎりはあるものの)集められている。この授賞プロジェクトが勝手連の精神で自由に運営されながらも、社会と大学を結ぶ一つの機縁となることを祈っている。

◎CatalTo学術賞(早稲田大学會津八一記念博物館)
『狩谷掖斎墓碑受贈記念 狩谷掖斎――学業とその人』
・プレゼンターから
 東日本大震災によって、狩谷掖斎の墓碑が破損し修理する必要が生まれたことをきっかけとする展覧会である。本カタログを推薦する理由は、主に以下の二点である。一つ目は、学術研究をリードするようなカタログである点を挙げたい。あまり研究されてこなかった狩谷掖斎という人物を取り上げ、「考証家」狩谷掖斎の業績を辿りながら、周辺の人物への目配りを行った、多角的な広がりを持つ展覧会であったといえよう。二点目は、資料的な価値の高さである。資料がカラー刷りであるところ、漢文には訓読文が付記されているところなど、資料として見る際に便利である。

・受賞者から(早稲田大学會津八一記念博物館・徳泉さち)
 東日本大震災によって、破損した墓碑の破片を拾うところから、作業は始まった。大きな墓碑であったため、修復場に持っていくところから苦労があった。ミルフィーユ状になった石が捲れ上がってくるのを押さえるのも困難であった。3年の歳月を要し、修復を終え、博物館に運び込んだ。
早稲田大学會津八一記念館博物館の強みは、大学のなかにある博物館であるところにある。狩谷掖斎は様々な方面で活躍した人物であったが、展示ではその多方面での活躍をすべて見せ尽くすことができなかった。その活躍をあますところなく伝えるため、図録には大学の様々な先生へ原稿依頼をするなど協力を仰ぎ、厚みのあるカタログを作成することができた。

(〔2〕につづく)
(2018年9月22日 文責:石川真奈実)
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CatalTo2017開催〔5〕

日時:2018年6月1日(金)14:00~18:00
場所:駒場博物館2階自然科学博物館展示室
出席者:CatalTo(展覧会図録品評勝手連TOKYO)メンバー計19名
メンバー=教員4名(学内)、大学院生およびOBOG 15名(学内外)

活動報告:(〔4〕のつづき)


・『澁澤龍彦:ドラコニアの地平』(世田谷文学館、2017年10月7日~2017年12月17日)
(寸評)
没後30年を迎えた澁澤の魅力を「語る」一冊。豪華ゲストのエッセイや対談に加え、愛蔵の品々の静かな「語り」が心に迫る。

・『日本パステル畫事始め』(目黒区美術館、2017年10月14日~2017年11月26日)
(寸評)
日本における「パステル畫」の成り立ちを、パステルという画材の特質や製造工程まで具体的に例示した、資料的価値の高い展覧会カタログ。

・『タイポグラフィーの楽しさを探る』(武蔵野美術大学美術館、2017年10月16日~2017年11月11日)
(寸評)
タイポグラフィーの教育現場と、その多様な実践を一冊の書物で伝えるカタログ。理念と実践を兼ねた一冊が、タイポグラフィーのこれからの可能性を想像させてくれる。

・『明治の万国博覧会 新たな時代へ』(久米美術館、2017年10月21日~2017年12月3日)
(寸評)
第五回パリ万博(一九〇〇)、セントルイス万博(一九〇四)、第五回内国勧業博覧会(一九〇三)が見て分かる、読んで分かる一冊。ビジュアルとテクストのバランスが良く、リーダブル。

・『無垢と経験の写真』(東京都写真美術館、2017年12月3日~2018年1月28日)
(寸評)
すでに十四回目となる「日本の新進作家」展のカタログ。特段に目を引く構成ではないが、新進作家を着実に紹介して世に送り出してゆこうとする、同館の確かで篤実な姿勢をうかがわせて好感が持てる。扱われている内では最も若いが、片山真理の作品が秀逸と感じた。

・『徳川家光と若一王子縁起絵巻』(北区飛鳥山博物館、2018年3月17日~2018年5月6日)
(寸評)
家光の命で作られた絵巻(模本のみ現存)の全貌を紹介。横長の判型で綴じ代に写真が隠れず、連続する場面も見やすい設計。

・『フランス絵本の世界:鹿島茂コレクション』(東京都庭園美術館、2018年3月21日~2018年6月12日。2017年9月23日~2017年12月24日、群馬県県立舘林美術館にて開催)
(寸評)
まるで「絵本」のような可愛らしいカタログ。展示された絵本のクローズアップ写真がたくさん載っていて、「ここのこの装飾を見てほしい」「この絵に注目してほしい」というメッセージが伝わってきます。展覧会で見逃してしまったところを新たに発見できる面白いカタログになっていると思います。

(以下は、東京近郊での展覧会ではありませんが、ノミネートされたものです)
・『KYOTO GRAPHIE』(京都国際写真展、2017年4月15日~2017年5月14日。虎屋 京都ギャラリーをはじめ18ヶ所で同時に展示)
(寸評)
街なかに点在する各会場を舞台とした国際芸術祭の内容を凝縮したカタログ。良質な印刷により、その全体像を概観できる。

・『図録近代日本の道徳教育』(京都市学校歴史博物館、2017年12月16日~2018年4月15日)
(寸評)
歴代の教科書の見開き図版多数。「道徳」の前身である修身教育の歴史から、近代日本が目指した国家のあり方が見えてくる。

(2018年9月22日 文責:石川真奈実)