日時:2019年7月26日(金)15 : 50 - 19 : 00
場所:東京大学教養学部駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム3およびオープンスペース
出席者:学内外関係者51名
活動報告:(〔3〕のつづき)
また文学面の監修は都留文科大学教授の野口哲也先生が主に引き受けてくださるなど、まさにクロスジャンルでありながら、作品も、文学の側面も大変充実した展覧会となった。初めて作家の方々の作品を目の前にしたときに、それらの人形は、人間ではない何かほかの生きものであるという印象を持った。一方で、泉鏡花が描く女性も、妖怪なのか魔物なのか、あるいは神様なのか、最後まで正体が分からない存在である。このような体験から今回のようなクロスジャンル的な展覧会、そして展覧会カタログが誕生した。
カタログ作りで苦労した点としては人形を撮影するロケ地探しがあり、弥生美術館からごく近く、撮影に適した場所として東京大学本郷キャンパス内の三四郎池も候補地に含まれていたが、結局利用することが叶わないなどの困難な点もあった。
◎薄くても良いで賞(栃木県立美術館)
『工芸の教科書』
・プレゼンターより(日本学術振興会特別研究員 松枝佳奈)
CatalToで選定される展覧会カタログには大きくて分厚いものが多い傾向があるように思われるが、このカタログの特徴は、小学生の時に使っていたノートや教科書を思わせるようなシンプルな装丁とその薄さである。しかし、その外観とは打って変わって、カタログの中では、小さな図版がたくさん用いられ、栃木県特産の工芸品である益子焼の制作工程などが、丁寧に分かりやすく説明されている。ページをめくっていくと、工芸の知識がない入門者でも、工芸の材料から制作工程までといった工芸の全てが分かるようにつくられているやさしいカタログである。それと同時に、専門家や研究者にとっても、傍らにおいておきたいと思えるようなものになっている。
・受賞者より(栃木県立美術館 鈴木さとみ)
見た目は薄くても内容はあついカタログを目指した。近年、明治の工芸の超絶技法に注目が集まる中で、近代工芸について、その制作過程における苦労や、素材の特性、技法による作品の魅力を伝える展覧会を開催したいと思った。公立の美術館であるため、予算や出品できる作品などにも制約がある中で、一つ一つの出展作の個性に注目した展覧会を構成することを心がけた。栃木県にゆかりのある現代の作家の方々のアトリエを訪ねて、時にはそこで体験しながら、その制作の難しさ、特性、そしてそれらに由来するそれぞれの作品の個性を学び、展覧会で伝えることに努めた。
初めは無料の小冊子として配布しようとして用意していた鑑賞ガイドは、伝えたいことを盛り込んでいくうちに内容が膨大になり、その内容を展示室に反映することも困難な程になったため、販売用のカタログにつくり替える方向に舵を切った。また、カタログの読みやすさを追求した結果、より大きな装丁に変更した。
カタログの内容は、現代の作家の方々へのインタビューをもとに構成しているが、作家の方々は驚くほど細かにその制作方法を伝授してくださり、制作に関する情報漏えいが心配になるほどであったが、そのことについて、技法が知られたところで制作できるというわけではないという意見や、制作者の裾野を広げ、その先にある表現の領域で他の作家と競い合いたいというような作り手の言葉が聞かれ、新鮮な体験であった。
このカタログは、今まであまり作品集を発表してこなかった現代作家の方々による作品を紹介できた点について、作家の方々から感謝の言葉をもらえたことに加え、展示作家の方々の、作品の発信についての意欲を高めるきっかけにもなったのではないかと思っており、結果としては栃木の文化の底上げにも貢献できたのではないかと考えている。
◎一般にもオススメで賞(東京都庭園美術館)
・プレゼンターより(博士課程 モハッラミプールザヘラ)
この展覧会カタログはまず、デザインがとてもかわいく素敵である。一目見ただけでは椅子とは気づかない程の、芸術作品の写真が表紙になっている。カタログを開くと見開きページいっぱいに、まるで行進しているかのように動物たちが列をなしている。作り手たちの豊かな想像力を伝えるこのカタログは、眺めるだけでもとても楽しいものであるが、カタログの始めに付されているブラジルの地図や民族についての解説を読むと、ブラジルにある多様性についても知ることができるものになっている。またカタログに含まれる論文を読んでみると、人間と自然環境との関わりについて、また伝統と現代というテーマについても知ることができ、これらについて考えるきっかけを与えてくれる。
(〔5〕につづく)
(2020年2月18日 文責:中西麻依)