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「ある編集者のユートピア」展 (下)

会場:世田谷美術館
会期:2019年4月27日(土)~6月23日(日)
評者:佐々木悠介
寸評: 第Ⅲ部は、小野が晩年に講師として通った高山建築学校と、さらにそこでの講師仲間であった石山修武の「世田谷村」(2001年)の展示だった。私自身は、小野二郎が建築分野にもこれほど深い関心と関わりを持っていたことを知らなかったので、この第Ⅲ部はまったく新しい発見になった。と同時に、ここまでくればこの展覧会の意図するところがはっきりしてくる。つまりこれは小野二郎の業績を回顧するための展示という以上に、小野が生きていたら見届けたであろう広大な文化的、芸術的風景を描き出そうとする展覧会なのである。だからこそ、ある時期小野と密接に関わった人たちがその後に成し遂げた仕事、つまり晶文社のさまざまな刊行物とか、世田谷村とか、そういったものが大事になってくるのである。

 第Ⅲ部の最後に、1980年の高山建築学校で小野が行った、15分程度のミニ講義の映像があった。『ガリバー旅行記』から始めてベラミーへ、モリスへと拡げながら、ユートピア思想とは、労働とは、芸術とは、とめまぐるしく話題を転じていく。冒頭でスウィフトに言及されるのを聞いて、すぐに堀大司の影響を思った。本展第Ⅱ部の年譜に、一高の「英語の担当教官に島田謹二と堀大司がいた」とあったのが、ここで繋がったのである。
 なお、この講義映像に見る小野二郎はすでにだいぶメートルが上がっていたのかも知れなくて(本展で小野が一升瓶を抱きかかえるようにして座っている高山建築学校の写真を観た後では、そう無理な想像というわけでもない)、話があちこち飛んだり、勢いで締めくくったりしたところはあるようにも見受けられたが、この映像を二回通して観て、やはり生前の小野二郎に会ってみたかったと強く思った。

 われわれが本展によって考えを改めなければならないのは、このようなことであろう。つまり小野二郎はモリス研究者として大学で教える傍ら、晶文社「も」やっていた、などというのではなくて、かくも多才でエネルギッシュな人物にとって、大学教員としての仕事は、日々の労働(ただしそれはモリス主義者のもっとも崇高な意味での「労働」だが)の一つに過ぎなかったのだ、ということである。

 このような、お客さんの入らなそうな展覧会を企画した世田谷美術館に、拍手を送りたい。これまでにも『フェリックス・ティオリエ』展のように、誰も知らない写真家の展覧会を敢行されるような(無茶な)ところはあったにせよ、本展の「閑古鳥」ぶりはきっとそれを凌駕するだろう。それでも本展は、ある種の人文系学術研究が20世紀後半の日本における出版界や芸術・文化活動と密接に関わり、しかも潜在的な社会運動ですらありえたことを、見事に示したと思う。

(文中敬称略)


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