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[寸評]カルポー:帝政の彫刻家 Carpeaux (1827-1875), un sculpteur pour l'Empire



・会期:2014年6月24日(火)~9月28日(日)
・会場:オルセー美術館
・評者:齋藤 達也

19世紀フランスの彫刻家といえばロダンの名が圧倒的に有名でしょうし、少し遡れば凱旋門を飾る浮彫り《ラ・マルセイエーズ》の作者フランソワ・リュードも知られているかもしれません。一方で19世紀半ばを見ると、リュードとロダンの活躍した時期に挟まれた時代、ちょうどクールベやマネがサロンに挑んでいた第二帝政期(1852-1870年)を代表する彫刻家にジャン=バティスト・カルポーがいます。このカルポーの大回顧展がパリのオルセー美術館で開かれています。ボードレールは「彫刻はなぜ退屈か」と問うていますが、そんなことはなく、非常に見応えのある展覧会でした。

19世紀の彫刻研究は二つの展覧会がきっかけとなって80年代以降盛んになりました。1980年のアメリカでの展覧会(註1)、ついで1986年に本国フランスのグランパレ(註2)で開催された19世紀フランスの彫刻作品を集めた大規模な展覧会です(分厚いカタログは必見)。86年に開館したオルセー美術館や、90年代以降のフランスの地方美術館では、収蔵庫に長らく眠っていた19世紀の彫刻を常設展示する動きが広がります。これにともない彫刻史研究が進み、今年にはその名も『彫刻』と題した、19世紀以降の彫刻を対象とする学術誌が創刊されました(註3)。カルポーの大々的な展覧会の開催は、大きな盛り上がりを見せる彫刻史研究の流れの中で実現したものでしょう。

オルセー美術館一階をまっすぐ進んだ突き当たりにある常設展示の区画には、見過ごされがちですが普段からカルポーの代表作が展示されています。大型で移動の難しい《ダンス》や《天球を支える四世界》があるこの一帯が、オルセー美術館としては例外的な仕方で特別展の会場に仕立て上げられています。

出身地ヴァランシエンヌで修行したあとパリの国立美術学校に入学し、ローマ賞を勝ち取ってイタリアに留学、サロンで評価され、作品が国家によって購入されるようになる、いわばアカデミックなキャリアを歩んだカルポーですが、本展は年代順の展示構成をとることで、この彫刻家の生涯とそのときどきの作品がわかりやすく描き出されています。最初に評判となる《貝殻を持つ漁師》(別名《ナポリの少年の漁師》)は大理石像と石膏像が併置してあり、素材が異なることでこうも質感が変わるのか、ということがはっきりと見て取れます。また、鋳造の難しさによるものかもしれませんが、石膏像においては細部が省略・変更されている様子がわかるのも興味深い点です。

ダンテの『新曲』地獄篇からインスピレーションを得た大作《ウゴリーノ》も、筋骨隆々とした肉体の表現が見事でした。《ウゴリーノ》は石膏像とブロンズが会場に併置されていますが、今回の展覧会を共催しているニューヨークのメトロポリタン美術館が購入したばかりの大理石像はパリには展示されていなく、やや惜しまれました。しかしながら、今回の出品作の内の少なくない数の作品が、パリでは展示されているもののニューヨークでは見ることができなかったようです。作品搬送上の問題等があったのかもしれませんが、国際巡回する彫刻の展覧会を開催することはなかなか容易でないのだと感じ取りました。

本展には彫刻のみならず、多くの素描、画帳、油彩画なども展示されています。そのことで、彫刻作品の構想段階で素描の果たす大きな役割が、はっきりと理解できました。くつろぐナポレオン三世の姿を背後からクロースアップして描いた素描はとりわけ印象に残ります。これだけインフォーマルな姿で描き出されたナポレオン三世は珍しいのではないでしょうか。

帝室に重用された彫刻家だけあって、ナポレオン三世、ウジェニー皇后、マチルド皇女らの肖像彫刻も制作しています。他にもシャルル・ガルニエやデュマ・フィスなどの著名人らもモデルになっています。そうした肖像の表情のどれもが、リアリズムを感じさせるものです。1869年にオペラ座で完成した《ダンス》は当時大きく評価のわかれた作品ですが、会場で改めてじっくり見ると、ダンスの擬人像やそれを取り囲む巫女たちの生き生きとした表情が非常に写実的です(ちなみにオルセー所蔵の《ダンス》がオリジナルで、現在オペラ座にあるものは20世紀後半のレプリカ)。

カタログは360頁あり、重厚な仕上がり。年代順にカルポーのキャリアを振り返りつつ、作品解説やテーマ別の論文が収録されています。年表や文献目録は詳細。出品目録には作品来歴と展覧会歴の他に、その作品に言及した文献(同時代のものから現代まで)の一覧も付されており、カルポーの受容研究にとっては必須の情報が詰め込まれています。学術的に完成度の高いこのカタログは、19世紀美術史に関心のある方にとって一見の価値があります。

カルポーひとりに焦点を当てたモノグラフィックな展示でありながら、出品作の質と量の両面において圧倒的な本展は、19世紀フランスの彫刻史全体への関心を喚起するものであるように思います。個人的にも、ロダンにばかり注目するのではいけないのだと痛感しました。日本では、国立西洋美術館、静岡県立美術館、東京富士美術館などでカルポーの作品を所蔵しているようです。

(註1)Romantics to Rodin: French Nineteenth-Century Sculpture from North American Collections, 1980.
(註2)La Sculpture française au XIXe siècle, Galeries nationales du Grand Palais, 1986.
(註3)Sculptures, Presses universitaires de Rouen et du Havre.


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