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2014年8月 アーカイブ

2014年8月20日

[おすすめ]魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展



・会期:2014年6月18日(水)~9月1日(月)
・会場:国立新美術館
・評者:伊藤 由紀

オーストラリア・バレエ団がレパートリーとするグレアム・マーフィー版『くるみ割り人形』(2002年初演)は、同地の真夏のクリスマスが舞台。主人公の老婆の夢の中で、彼女がかつてはロシア帝室バレエ団のダンサーだったこと、革命を逃れてバレエ・リュスの世界ツアーに身を投じたこと、たどり着いたオーストラリアでバレエの振興を牽引してきたこと......が回想されます。

この作品の印象が強かったので、「オーストラリア国立美術館が有する世界屈指のバレエ・リュスのコスチューム・コレクション」(公式サイト)が来日すると聞いた時は、てっきりド・バジル大佐のバレエ・リュスのツアー時の衣装が、オーストラリアにそのまま残っていたのかと思いました。が、実際にはこのコレクションの大半は、1970年代以降にオークションで購入したものだそうです。とはいえ国立美術館が早くから関連資料を重点的に集めていたという事実は、バレエ・リュスが同地の芸術シーンに大きな影響を与えた存在として記憶されていることの証左に他ならないでしょう。

さて、会場を入ってすぐの小部屋で解説映像を見たあと、メインの展示室に足を踏み入れると、衣装を着たマネキンが展示室の端まで延々と並んでいるのに圧倒されました。劣化の激しい一部の衣装はガラスケースに入れられていますが、ほとんどは遮るもののない状態で、ほぼ全方向から細部を確認できます。

一部の衣装については、デザイン画と見比べることができたのですが、どの作品もデザイン画のほうが圧倒的に色鮮やか。衣装が年月を経て褪色してしまったのか、それとも染色技術や舞台上での効果などの理由で、最初からデザイン画の色味の通りには作成されていないのかが気になるところですが、その辺りはあまり説明がなかったように思います。また、家に帰ってカタログを読んで初めて、これらの衣装が展示できるようになるまでには大変な修復の努力があったことを知ったのですが(デビー・ウォード「看過された事実:タグ、スタンプ、汚れ」)、会場でも多少はそのことを説明したほうが(たとえば同じ衣装の修復前・修復後の写真をパネルで示すなど)、資料との出会いの感慨が一層深まったのではないかと思いました。

出品作品そのものに圧倒的な存在感があるだけに、会場の解説にはほかにもやや物足りなく思う点がありました。作品解説のパネルでは、出品作品名や素材だけでなく、バレエ作品のあらすじと衣装の解説の部分まで、日本語・英語が併記されているのですが(英語版はおそらく、オーストラリア国立美術館で2010~2011年に開催された同趣旨の展覧会の公式サイトで公開されているものと同一)、英語版解説からの誤訳、というよりはおそらく意図的な改変を疑わせるものが散見されました。たとえば「牧神の午後」(cat. no. 12.1-12.3)の結末部分の説明はぼかしすぎだと思うのですが、あそこまで自主規制する必要ってあるのでしょうか。たしかに、会場にはいかにもバレエを習っていそうなお子さんたちの姿も多かったし、カタログには会場とは別の訳が載っていたので、この箇所に関してはこの対応でやむを得なかったのかもしれませんが。

カタログはハードカバー、全280ページで3,500円。基本的には、上述のオーストラリア国立美術館での展覧会のカタログからの翻訳ですが、バレエ・リュスのオーストラリア・ツアーに関する論文のみ、本橋弥生氏の論文「日本におけるバレエ・リュスの受容──1910-20年代を中心に」に差し替えられています。滞欧中にバレエ・リュスに接した日本の演劇人、画家、音楽家らによる舞台評を網羅的に紹介するとともに、バレエ・リュスの画家たちと日本の芸術関係者との私的な交流についても紙幅を割いており、非常にインフォーマティブなものでした。

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