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[寸評]「ハイレッド・センター」直接行動の軌跡展



・会期:2014年2月11日(火・祝)~3月23日(日)
・会場:渋谷区立松濤美術館
・評者:遠藤 綾乃

 まだ風も冷たく感じられる3月9日(日)、第二回見学会として渋谷区立松濤美術館で開催されている「ハイレッド・センター」直接行動の軌跡展に向かいました。
 「ハイレッド・センター」とは1963年に結成された芸術家集団の名称で、高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之の三人の姓の英訳の頭文字を並べたものです。(高松のHi, 赤瀬川のRed, 中西のCenter)この展覧会は彼らの活動を文献資料や写真、作品を用いて多角的に紹介しています。赤瀬川氏は1960年代の活動について、芸術とは開けた途端に腐り始めるから芸術じゃないと嘘をついて芸術をした、作家のアトリエ内の状態を町全体に拡大し、材料を掻きまわしていった(撹拌)、と述べています。 (注1)
 本展覧会ではその撹拌の詳細を明らかにしています。
 展示室に入るとまず目に飛び込んできたのは、中西夏之氏の《洗濯バサミは撹拌行動を主張する》(1963年)という作品。衣服やキャンバスに無数の鉄製の洗濯バサミが食いついています。そう、食いついているという感じなのです。その硬い質感も相まって、どこか痛々しくも感じられます。この作品は第15回読売アンデパンダン展に出品されたものですが、読売アンデパンダン展とは読売新聞社の主催する、1949年から1963年まで開かれた無審査自由出品の公募展でした。つまり当時の若い芸術家が、自由に作品を発表できる貴重な場所でした。そのときのこの作品の展示の様子について、赤瀬川氏は『東京ミキサー計画』の中で回想しています。作品の壁の下の床の上に洗濯バサミが散らばっていて、観客の靴でピンと横に飛ばされると、次々と蹴飛ばされて隣の展示室に行き、それを拾った別の観客が、ふと洗濯バサミを見知らぬ人の襟に付けてみたくなる。それが連鎖して、そのうち遠く離れて人の家に入り込んだりする。それはまさに作品のタイトルである「洗濯バサミが撹拌行動を主張した」からなのだ、と。(注2)つまり、洗濯バサミが外へ外へと出ていき、私たちの日常に入りこむ過程が撹拌行動であり、そのように作品が芸術の中心である展示室から自然と離れていく動きこそ、ハイレッド・センターの狙いであると感じました。また、今日行われる展覧会は、作品と鑑賞者の間を厳しく区切っているのが一般的です。しかし、50年ほど前には、鑑賞者が直接作品に関与するような近い展示環境も可能だったのだと新鮮に思いました。
 展示室内には、高松氏、赤瀬川氏、中西氏を中心として、他の芸術家の作品もバランス良く展示されていました。例えば読売アンデパンダン展の展示を再現していたり、会場風景の写真やチラシやポスターと共に展示されていたりと、当時の空気を感じられる構成になっています。特に、当時の写真や関連作家の作品からはハイレッド・センターが周りを巻き込みながらいかに活動をしていたか、当時の芸術家同士の交流はどのようなものであったかを垣間見ることができました。
 次の展示室は帝国ホテルで訪問客の人体の計測を行った「シェルタープラン」や、建物の上から様々な物を落とす「ドロッピング・イヴェント」、画廊の閉鎖から始まる「大パノラマ展」など、ハイレッド・センターの活動を追っています。赤瀬川氏が千円札を模造して逮捕された「千円札裁判」では、公判に使われた写真や判決文、新聞記事とそれに対する赤瀬川氏直筆の抗議文などが展示されており、模造千円札を巡っての芸術家と司法(公共)の応酬が興味深く示されています。赤瀬川氏が法廷で、証拠品として芸術品を提出したとき、芸術をついに非芸術の場に持ち込んだといえるかもしれません。
 全体を通して、ハイレッド・センターの活動を丁寧にまとめ、全体像を紹介した非常に充実した展覧会でした。中でも実際に配られた招待状や整理券などは見る機会が少なく、作家の手の跡の残る資料を目の当たりにした生々しい体験でした。しかし、半世紀が過ぎた今、1960年代の雰囲気を感じるには限界があります。展示室には作品が整然と飾られて、どこかよそよそしく、解説を見ても納得しきれない気持ちがあったことも事実です。それゆえ、作品と現代の鑑賞者をつなぐために、レクチャーの回数を多くする、作家の声を伝える、などの工夫があればもっと良かったのではないかと考えます。
 そして改めて思うことは、これは「行動」の芸術で、次々と行われていくその場を目撃したかったということです。「行動」に面と向かったときに引き出される人々の反応―わからなさ、怖いような不安なような生々しい感情―が、重要ではないでしょうか。当時、やはり読売アンデパンダン展に出品していた工藤哲巳という作家がいます。工藤哲巳もまた違った方法で生々しさを追求しました。《あなたの肖像》(1963年)では人体の一部分を積み重なったサイコロの中に収めています。一見してグロテスクな作品なのに、「あなた」という題名がつき、鑑賞者は違和感と不信感を覚えます。しかし、良く見ればそれはやはり「わたしたち」人間の姿だと認めざるをえません。
彼らのようにこの時期に活躍した日本の作家の作品を見ていると、芸術の枠から飛び出して人々に「生々しさ」を突き付けようとした、そんな試みに見えてきます。
 「ハイレッド・センター」直接行動の軌跡展は3月23日(日)まで、工藤哲巳展は東京国立近代美術館で3月30日(日)までの開催です。
 1960年代、公衆の度肝を抜いた「直接行動」をぜひ会場でご覧下さい。

(注1)赤瀬川原平『東京ミキサー計画-ハイレッド・センター直接行動の記録』1994年、筑摩書房、6頁。
(注2)同上、54頁。


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