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[寸評]「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」



・会期:2013年10月3日~2014年1月19日
・会場:東京都現代美術館
・評者:岡野 宏

 現在、東京都現代美術館で開催されている「うさぎスマッシュ 世界に触れる方法(デザイン)」展(会期:2013年10月3日~2014年1月19日)について簡単にレポートを行う。
 展示冒頭に示された序文から適宜引用するならば、本展は「私たちの周りで起きている問題に気づかせたり、考え方を示唆するものとしての」デザインに注目し、「私たちが生きる世界の状況を独自の仕方で読み込み、構築し、時には直観や想像力による思いがけない発想で、既存の知識体系や情報伝達のあり方を問い直」そうとする現代の作家の実践を取りあげる企画である。
 ここでいう「デザイン」とは、単になんらかの作品ないし製品の二次元的、三次元的イメージを生み出すことを指しているのではない。それも含むのだが、ここではよりクリティカルな視点が導入されている。私たちはなにげなくこの世界のなかに生きているわけだが、そこにひろがる無意識の「日常」はまた、世界のさまざまなありように対しての感受性を鈍らせるものでもあるだろう。「デザイン」は、これに抗おうとする作家が見出した、ときには想像した世界の別な側面に形を与えることに他ならない。見出された「世界」は「デザイン」によって形態のなかに封じ込められ、私たちのもとに送り届けられる。
 さらに、キュレーションを担当する長谷川祐子氏は「デザイン」と「コンセプチュアル・アート」の相違を、出品作家のひとりであるスプツニ子!氏の言葉を参照しながら、前者のもつ「使うことができる」性格に求めている。デザインされたプロダクトを使用するとき、必然的にわれわれはそれに「触れる」ことになる。それは同時にそれによって媒介された「世界」に「触れる」ことでもあるだろう。プロダクトを「使うか使わないか」という決定がいわば「世界」に対しての態度表明であり、ここにいわゆる美術鑑賞とは異なる、より能動的な世界への参与が切り開かれると長谷川氏は述べている(注1) 。
 会場では、このような構想の下に、21組の作家の作品が比較的にゆるやかなつながりのもと配置されている。ロンドン在住のアレキサンドラ・デイジー・ギンズバーグ氏とサシャ・ポーフレップ氏による水彩画《栽培-組立》(2009年)は、さながら工業製品のようにして生産され、組み立てられる植物の実-その用途は皮肉なことに除草剤である-を18世紀の博物学者のような即物的なタッチで描いている。ドラえもんの道具にも通じる便利な「世界」は同時に、すべてが道具化される悪夢的状況でもあるだろう。植物によって植物を除去する。筆者はそこにある種の倫理的な問題を感じざるを得なかった。
 しかし、会場を進むにつれ、このような「倫理的問題意識」はひょっとすると胡散臭いものかもしれないと感じるようにもなったのだ。ミカエル・マッセイ氏による《ポックス・テディ》(2007年)は意図的にウイルスを染み込ませたちいさな熊の人形である。それこそそのまま食べてしまえそうな、かわいらしいこのおもちゃは、作家によれば、子供に与えることで、子供が遊びながらウイルスに感染し、免疫を獲得することに役立つ。作家はこの作品を通じて、子供を意図的にウイルスに感染させることの是非やウイルスを道具として用いる未来のあり方について問うている。
 《栽培-組立》と《ポックス・テディ》があつかう問題はある部分で重なり合っている。つまり前者は植物によって植物を除去し、後者はウイルスによってウイルスを除去する。しかし、ごく直感的なレベルにおいてであるが、筆者は前者に対しては「倫理的問題」を感じ、後者には感じることが出来なかった(もちろんこれは筆者の主観である)。おそらく、筆者は《栽培-組立》の除草剤を「使う」ことほどには、《ポックス・テディ》を「使う」ことにはためらいを覚えないはずである。だが、両者を隔てる根拠はどこにあるのだろうか。おそらくここでも筆者自身の「世界」が問われているのだろう。
 もちろんこうした問題提起型の作品ばかりが展示されているわけではない。スプツニ子!氏の《ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩》(2013年制作、Youtubeでも閲覧可能→http://www.youtube.com/watch?v=6P1uFNdKdQA、会場では大画面で見られる)は作家独自の想像力に溢れた映像作品である。主人公の「理系女子」セレナはこれまで一度も女性が月面に降り立ったことがないことに奮起し、自作のロボットを用いて月面にヒールの足跡を付けようと試みる。普通には国家や大企業が関わるものとされている宇宙探索を個人で成し遂げようとする想像力が、映像を通して鑑賞者に伝播してゆく。
 総じて出展作品の完成度は高く、コンセプトと提示されたモノのギャップに幻滅するような作品はなかったと思う。展示作品点数はそれほど多いとはいえないが、作品同士を比較して見る分にはちょうどよかったかもしれない。作品間のスペースも過不足なくとられていた。なお、フラッシュ禁止などの条件があるものの、基本的に会場内は撮影可である。営利目的でなければ公開も可能なので、多くの方がスマホ片手に鑑賞していた。
カタログは税抜きで2800円。A5サイズのどちらかといえばしゃれた感じの装丁で、内容としては、展示作品と一部それに関連する作品のイメージ(ただしいくつかの作品はイメージが掲載されていない。そのこともカタログには明示されている)、各作家による自作解説と自分流の「デザイン」の定義、長谷川氏らによる論考、そして作品データを含んでいる。掲載された全ての文章を和文と英文双方で読むことが出来る。注意したいのは、作家の自作解説は「なぜこの作品を作ったか」「作品のコンセプト」「作品を通じてどう社会に働きかけようとしたか」に関してのものであって、一般的な意味での作品の説明ではないということである。そのため、会場で作品を実見せずにカタログだけ見ても、ほとんど作品理解は得られない。ぜひ会場に足を運んでからカタログをご覧になることをおすすめしたい。音声ガイドあり(なお筆者は未聴)。ヘッドフォンの柄の部分にうさみみ(!)が付いているので、装着の際にはそれなりの心構えが必要だが、思いきって「使ってみる」ことで、展覧会の「世界」に参与してみるのもよいだろう。


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マーニー・ウェーバー《丸太婦人と汚れたうさぎ》(2009年、筆者撮影)。丸太に女性の顔が見える。

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シセル・トラース《においの風景 東京》(2013年)の展示台(筆者撮影)。小瓶のなかににおいのサンプルが詰められており、手に取ってかぐことができる。なかなか強烈なにおいである。


注1)長谷川祐子「うさぎスマッシュ――世界に触れる方法(デザイン)」(本展覧会カタログ『うさぎスマッシュ 世界に触れるアートとデザイン』所収)より。


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