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[寸評]プーシキン美術館展 フランス絵画300年




会期:2013年7月6日(土)〜2013年9月16日(月)
会場:横浜美術館
評者:松枝 佳奈

 1912年にロシアのモスクワに創設されたプーシキン美術館(当初の名称は「モスクワ大学附属アレクサンドル3世美術館」。1923年に「国立モスクワ美術館」、1937年に「国立A.S.プーシキン記念美術館」に改称。)。世界に誇るフランス絵画の一大コレクションがあることで知られています。また第二次世界大戦後、政治的な理由から廃館となった国立西洋近代美術館からプーシキン美術館に移管されたのが、モスクワが生んだ第一級の西洋美術蒐集家、セルゲイ・シチューキン(1854-1936)とイワン・モロゾフ(1871-1921)の膨大な個人コレクションでした。

 本展覧会ではそれらのうち、17世紀から20世紀までの300年にわたるフランス絵画に焦点が当てられています。とりわけヨーロッパ絵画の中心的主題の一つといえる、風景や室内の中の人物が描かれた油彩や肖像画を中心に構成されています。人物描写を軸にフランス絵画表現の変遷を一堂に見渡すことのできるまたとない贅沢な機会が得られるのです。この点はこれまでのプーシキン美術館関係の展覧会に比べて特徴的であり、見所といえます。また出品された作品の半数以上が日本初公開であることも、日本・ロシア双方の学芸員の方々のご尽力の賜物でしょう。

 展覧会カタログは、見開き1ページ左半分(A4サイズ)に担当学芸員による画家と作品の解説、右半分(A4サイズ)に図版を掲載するという構成になっています。フランス絵画やそれを通じたフランス文化の手ほどきとしても読み応えのある非常に充実した内容と思われます。

 ここでロシア文化研究に関わる評者の立場から、本展覧会について考えた点を少し挙げてみたいと思います。会場に足を運んだのは夏休み期間中だったこともあり、会場では大勢の小中学生が熱心に一つ一つの作品を鑑賞していました。その中にはおそらく初めてフランス絵画に触れた子供たちもいたのではないでしょうか。しかしこれを単なる「フランス絵画300年」の歴史として鑑賞者に提示することには、疑問を覚えざるを得ませんでした。

 本展は紛れもなく「"ロシアが憧れ愛した"フランス絵画300年」の歴史なのです。各作品には、当時の最先端を行くフランス文化へのロシアの憧憬(例えばランクレ「けちな女の愛人は詐欺師」やシャルパンティエ「鳥籠のそばの婦人」など)や、エカテリーナ2世やユスーポフ、トレチャコフ、シチューキン、モロゾフらロシアの制作依頼主や蒐集者たちの色彩感覚や主題・構図・表現などに対する趣向(例えばアングル「聖杯の前の聖母」やゴッホ「医師レーの肖像」、マティス「カラー、アイリス、ミモザ」など)が色濃く反映されていると考えられます。おそらくロシアのフランス美術作品の蒐集・展示には、フランス本国の美術館や蒐集家たちのコレクションとは明らかに異なった傾向が見られるのではないでしょうか。さらにはロシア人が自らモデルになる(例えばミトワール「カンペンハウゼン男爵夫人」やペリニョン「エリザヴェータ・バリャチンスカヤ公爵夫人の肖像」)など、フランス絵画とロシア文化の融合が試みられている作品も数多く見受けられます。これらは先行するプーシキン美術館関係の展覧会や本展覧会でも一部触れられてきた内容とはいえ、それが鑑賞者にもう少し見えやすい形で展示することも可能であったように思いました。実際の作品をに目の当たりにすると、どれも素晴らしい作品であることに気づかされるがゆえに残念でなりません。

 以上に挙げた点は展覧会カタログ収録論文の内容にも表れているように思われます。確かにプーシキン美術館側の担当学芸員は同館のコレクションとロシア人コレクターの歴史について解説しています。しかし日本側の学芸員では、愛知県美術館学芸員森美樹氏がわずかにロシアのマティス・コレクションに言及するのみに留まります。3世紀に及ぶ濃密な露仏美術交流史や美術から見た両国の文化交渉の様相を取り扱う本格的な論考が一つでもあれば、と願わずにはいられませんでした。今後の企画展に期待したいと思います。

 ロシアが愛した上質なフランス絵画を堪能することのできる本展覧会は、9月16日で横浜美術館での開催が終了し、今年9月28日から12月8日までの神戸市立博物館における巡回展が最後となります(愛知県美術館での開催はすでに終了(今年4月26日〜6月23日))。



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