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[寸評]Pieśni o podróży. Pieśni o rozstaniu(旅の歌、別れの歌) ―毛筆によるポーランド語古今和歌集展

会期:2013年4月24日(水)―2013年6月30日(日)
会場:アダム・ミツキェヴィチ文学博物館(ワルシャワ)
評者:松尾 梨沙

 ワルシャワ旧市街のまさに中心部に位置するミツキェヴィチ文学博物館は、その名の通りアダム・ミツキェヴィチ(1798-1855)の遺品や資料等を常設に持つ博物館です。と同時に、主にポーランドの文学に関わる作品等をより広く収集、展示することから、毎回とても魅力的な特設展が企画されています。最近では作家ブルーノ・シュルツ(1892-1942)の絵画作品展や、詩人・画家として活躍中のグジェゴシ・モリチンスキ(1936- )の個展などが開かれており、文学から発する様々な芸術作品を一度に堪能できる、まさにクロスジャンル的な空間です。ここでただいま開催中の「旅の歌、別れの歌」という展覧会に行って参りました。

 旅の歌、別れの歌というのは、日本の『古今和歌集』を構成する二十巻のうち、巻八(離別歌)、巻九(羈旅歌)を指します。この展覧会では、これら離別歌41首、羈旅歌16首を、まずは日本文学博士アンナ・ザレフスカがポーランド語に翻訳し、さらにポーランド詩となったそれらを、書道を学んだ画家レフ・ジュルコフスキが、墨と毛筆で記した作品が展示されていました。つまりは「ポーランド語のアート書道による古今集」が展開されていたわけで、日本人の私としては終始興味深い展示でした。

 そもそも短歌は五・七・五・七・七の音節数で構成されますが、ここで翻訳されたポーランド語の詩でも、五行からなる一連の詩として書かれ、各行が五・七・五・七・七の音節数で成り立っています。ポーランド語は元々アクセントがあまり強くなく、音節数を揃えるシラビズムの詩が好まれる傾向も強かったためか、これらのポーランド詩は、和歌のスタイルから意味まで非常に良く反映されており、無理なく自然に読めるものでした。加えて和歌というのは、日本人でも私のように勉強が足りていないとなかなか解釈し難いもので、現代ポーランド語でストレートに表現されている詩の方が、個人的にはむしろ読めるという面も...(笑)

 またポーランド語を墨と毛筆で記すということ自体、これまで思いも寄らなかったことでしたが、縦書きでひらがなを記す日本ならではの書道が、一般に比較的丸みを帯びて柔らかい印象を持つのに対し、本展の作品はもちろん横書きで、I、N、Yといったアルファベットの直線的な面が、とくに強調されているように感じます。この点では、子音が多くどちらかというと硬質な響きの印象を持たれがちなポーランド語の特徴を、視覚的にも表現しているように思われ、均整の取れた美しさに見入ってしまいました。日本の和歌や書道がそっくりそのまま輸入されるのではなく、しかしその形式はできるだけ残したまま、ポーランドの文化や習慣にフィットするよう再編するという、受容の方法のひとつを見られたのと同時に、「ポーランド化された日本の芸術」というとなかなか目にすることのできないもので、私にとっては大変貴重な体験でした。

 ただし本展にはキャプションがなく、カタログもありません。ポーランド詩の作品のみの展示でオリジナルの和歌もないので、古今集一首一首の意味内容までよほど記憶していないと、その場でオリジナルと比較するのは難しい状況です。本展に日本人が訪れること自体、あまり想定されていなかったかも知れません(笑)が、日本語のわからないポーランド人に対しても、和歌そのものの内容や、せめて視覚的な印象を知ってもらうという意味で、展示点数を減らしてでも、オリジナルと詳細なキャプションは各作品に並置して欲しかったと思います。これだけ面白い企画なのに大変残念です。

 私が見ている間も二、三人のポーランド人(しかも博物館関係者ばかり)が見に来ましたが、日本の詩がポーランド語で書かれているという以上にとくに感じ入ったという雰囲気もなく、ものの数分で出て行かれました。ストレートに訳された詩しかないために、ポーランド人にとってそこに何の情感があるのかまで読み取るのは、さすがに難しい気がします。その意味では、形式的な面で受容することができても、日本人固有の美意識を理解してもらうには、一層の努力が必要なんだということも今回よくわかりましたし、でも不可能なことでもないように、私には思われます。ぜひ今後に期待したいと思います。


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