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2013年6月 アーカイブ

2013年6月26日

[おすすめ]オディロン・ルドン―夢の起源―

・会場:損保ジャパン東郷青児美術館
・会期:2013年4月20日(土)~6月23日(日)
・評者:西田 桐子

オディロン・ルドンの展覧会。日本においてルドンの作品を多数所蔵する岐阜県美術館のみならず、ボルドー美術館などから出品された作品も数多く展示されています。特に、前半部ではルドンの生まれ故郷ボルドーに焦点をあて、画家としての形成期を浮かび上がらせる工夫がなされています。

この十年程の間にルドンの展展覧会は何度か開催されていますが、私にとっては、2007年に渋谷Bunkamuraにて催された「ルドンの黒」展以来のルドン展となりました。以前の鑑賞の際には、暗いキャンバスに棲む「異形」の存在という印象が強く残ったのですが、今回は、若きルドンの少々拙い筆さばきから、自然科学への興味、植物学者や文学者らとの交遊まで、またそれらにともない変化する画法や画風などがよくわかる展示方式で、揺れ動き変遷してゆく画家ルドンを感じることができたように思います。

また、文学に関心がある方にとっては、ポーやボードレールを題材とした作品も展示されていますし、さらには、ルドンの作品を見ながら親交のあったユイスマンスやマラルメらの作品との関連や照応を夢想したりなど、さまざまな楽しみ方ができるでしょう。

カタログも、色とりどりの花の絵とパステルピンクを基調とした表紙に、真白いカバーがかけられています。そして、そのカバーは「Redon」と型抜きされており、その名前の部分にだけ下の鮮やかな花の色が透けるという、従来のルドンイメージを覆すような愛らしいつくりとなっていますので是非手にとってみてください。

加えて、私が訪れた損保ジャパン東郷青児美術館は、新宿の高層ビルの42階で、絵を見る前に東京の街を一望し気分をリフレッシュすることもできました。
6月29日からは静岡市美術館にて、その後は岐阜県美術館、新潟市美術館などに巡回の予定となっております。

2013年6月28日

[寸評]Pieśni o podróży. Pieśni o rozstaniu(旅の歌、別れの歌) ―毛筆によるポーランド語古今和歌集展

会期:2013年4月24日(水)―2013年6月30日(日)
会場:アダム・ミツキェヴィチ文学博物館(ワルシャワ)
評者:松尾 梨沙

 ワルシャワ旧市街のまさに中心部に位置するミツキェヴィチ文学博物館は、その名の通りアダム・ミツキェヴィチ(1798-1855)の遺品や資料等を常設に持つ博物館です。と同時に、主にポーランドの文学に関わる作品等をより広く収集、展示することから、毎回とても魅力的な特設展が企画されています。最近では作家ブルーノ・シュルツ(1892-1942)の絵画作品展や、詩人・画家として活躍中のグジェゴシ・モリチンスキ(1936- )の個展などが開かれており、文学から発する様々な芸術作品を一度に堪能できる、まさにクロスジャンル的な空間です。ここでただいま開催中の「旅の歌、別れの歌」という展覧会に行って参りました。

 旅の歌、別れの歌というのは、日本の『古今和歌集』を構成する二十巻のうち、巻八(離別歌)、巻九(羈旅歌)を指します。この展覧会では、これら離別歌41首、羈旅歌16首を、まずは日本文学博士アンナ・ザレフスカがポーランド語に翻訳し、さらにポーランド詩となったそれらを、書道を学んだ画家レフ・ジュルコフスキが、墨と毛筆で記した作品が展示されていました。つまりは「ポーランド語のアート書道による古今集」が展開されていたわけで、日本人の私としては終始興味深い展示でした。

 そもそも短歌は五・七・五・七・七の音節数で構成されますが、ここで翻訳されたポーランド語の詩でも、五行からなる一連の詩として書かれ、各行が五・七・五・七・七の音節数で成り立っています。ポーランド語は元々アクセントがあまり強くなく、音節数を揃えるシラビズムの詩が好まれる傾向も強かったためか、これらのポーランド詩は、和歌のスタイルから意味まで非常に良く反映されており、無理なく自然に読めるものでした。加えて和歌というのは、日本人でも私のように勉強が足りていないとなかなか解釈し難いもので、現代ポーランド語でストレートに表現されている詩の方が、個人的にはむしろ読めるという面も...(笑)

 またポーランド語を墨と毛筆で記すということ自体、これまで思いも寄らなかったことでしたが、縦書きでひらがなを記す日本ならではの書道が、一般に比較的丸みを帯びて柔らかい印象を持つのに対し、本展の作品はもちろん横書きで、I、N、Yといったアルファベットの直線的な面が、とくに強調されているように感じます。この点では、子音が多くどちらかというと硬質な響きの印象を持たれがちなポーランド語の特徴を、視覚的にも表現しているように思われ、均整の取れた美しさに見入ってしまいました。日本の和歌や書道がそっくりそのまま輸入されるのではなく、しかしその形式はできるだけ残したまま、ポーランドの文化や習慣にフィットするよう再編するという、受容の方法のひとつを見られたのと同時に、「ポーランド化された日本の芸術」というとなかなか目にすることのできないもので、私にとっては大変貴重な体験でした。

 ただし本展にはキャプションがなく、カタログもありません。ポーランド詩の作品のみの展示でオリジナルの和歌もないので、古今集一首一首の意味内容までよほど記憶していないと、その場でオリジナルと比較するのは難しい状況です。本展に日本人が訪れること自体、あまり想定されていなかったかも知れません(笑)が、日本語のわからないポーランド人に対しても、和歌そのものの内容や、せめて視覚的な印象を知ってもらうという意味で、展示点数を減らしてでも、オリジナルと詳細なキャプションは各作品に並置して欲しかったと思います。これだけ面白い企画なのに大変残念です。

 私が見ている間も二、三人のポーランド人(しかも博物館関係者ばかり)が見に来ましたが、日本の詩がポーランド語で書かれているという以上にとくに感じ入ったという雰囲気もなく、ものの数分で出て行かれました。ストレートに訳された詩しかないために、ポーランド人にとってそこに何の情感があるのかまで読み取るのは、さすがに難しい気がします。その意味では、形式的な面で受容することができても、日本人固有の美意識を理解してもらうには、一層の努力が必要なんだということも今回よくわかりましたし、でも不可能なことでもないように、私には思われます。ぜひ今後に期待したいと思います。

2013年6月30日

[おすすめ]貴婦人と一角獣展

・会期:2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
・会場:国立新美術館
・評者:吉岡 悠平

中世ヨーロッパ芸術の最高傑作のひとつに数えられる6点組のタピスリー、《貴婦人と一角獣》。フランスのクリュニー美術館に収蔵されているこの連作タピスリーは、メリメ、ジョルジュ・サンド、プルースト、リルケなど多くの作家に激賞され、今では世界的に有名になりました。人々を惹きつけてやまないこのタピスリーは、幻想的な主題、調和のとれた構成、エキゾチックな色彩、精緻な製作技法など、その名声にふさわしい大きな魅力をそなえています。ですが、《貴婦人と一角獣》の最大の魅力は、なんといってもその「謎」にあります。ここでは、その「謎」のいくつかをご紹介させていただきます。

これから先を読む前に、リンク先にあるタピスリーの画像を少しご覧になってください。
http://www.musee-moyenage.fr/ang/pages/page_id18368_u1l2.htm
ご心配なさらずに。展覧会に行く前に見ても、実物に触れたときの感動が薄れることはないでしょう。むしろ、ディスプレイ上のタピスリーと、実際のタピスリーの絢爛豪華さのギャップに驚き、より大きな感動を得られるかと思われます。

さて、「謎」の紹介です。まず、貴婦人について。6点のタピスリーは、どれも似たような構図をとっています。向かって左側に獅子、右側に一角獣、そして中央に貴婦人。しかし、実物をゆっくり見ていくと、貴婦人の表情がひとつひとつ違っていることにしだいに気づきます。毅然とした顔、穏やかな顔、やさしげな顔、楽しそうな顔、少し疲れた顔、そして・・・。さらに、表情だけではなく、ドレス、装飾具なども、それぞれまったく違っていることにも気づくでしょう。それでは、タピスリーに描かれた貴婦人は、同じ人物ではないのでしょうか?獅子や一角獣は同じに見えるのに、貴婦人だけが違うのはなぜでしょう?

次に、貴婦人をとりまく人やものについて。先に述べたとおり、一角獣と獅子はすべてのタピスリーに登場します。貴婦人のとなりに侍女が描かれているものもありますが、2点は描かれていません。また、ほとんどのタピスリーで、貴婦人たちを取り囲むように4本の樹が描かれていますが、うち1点だけは2本しか描かれていません。そして、タピスリー全体にたくさん描かれている動物や花々も、それぞれに注目してみると、描かれたり描かれなかったりしています。ただ、目を凝らしてみると、なぜかウサギだけがどのタピスリーにも登場しているのに気づくでしょう。間違い探しのようですが、これらはたまたまなのでしょうか?それとも、意味があるのでしょうか?

最後に、最大の「謎」とされる「我が唯一の望み」について。1500年ごろに製作されてから長らく解明されていなかった《貴婦人と一角獣》をつらぬくテーマですが、20世紀初頭に「五感」をテーマにしているという説が有力になりました。それぞれのタピスリーは、次のようなテーマをもっています。貴婦人が一角獣に触れる「触覚」、鷹に餌をやる「味覚」、花輪を編む「嗅覚」、オルガンを弾く「聴覚」、一角獣を鏡に映す「視覚」。しかし、6枚目、すなわち貴婦人の後ろに天幕が描かれているタピスリーのテーマだけが明らかになっていません。天幕の上部には、"MON SEUL DESIR" (我が唯一の望み)という銘文が描かれています。五感を超えた「我が唯一の望み」とは何を意味するのでしょうか?このタピスリーに描かれる貴婦人は、何を想い、何を望むのでしょうか?

本展覧会は、《貴婦人と一角獣》の「謎」を、一角獣、動物と植物、五感、服飾、紋章などの観点から解き明かそうとする試みを行っています。これまで述べてきた「謎」についても、別のタピスリー、当時流行した装飾具、寓話の挿絵などを用いて考察を行っております。もちろん、これらの《貴婦人と一角獣》考察のために紹介される展示品も、見ごたえのある芸術作品ばかりです。

冒頭に述べたように、《貴婦人と一角獣》は第一級の芸術的価値をもちます。しかし、これまでフランス国外に出たことは一度しかありません。もしかしたら、今後100年のうちに再び日本に来ることはないかもしれません。今回の「貴婦人と一角獣展」は、フランスの至宝に直に触れることのできる貴重な機会であり、さらにその最大の魅力である「謎」の解明に迫るスリルも味わえるという、とても贅沢な時間が過ごせる展覧会です。この記事をご覧になった皆さまも、ぜひ会場に足を運んでいただき、《貴婦人と一角獣》のもつミステリアスな魅力を体験していただきたいと思います。

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