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[寸評]奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作

・会期:2013年2月9日(土)~5月26日(日)
・会場:三菱一号館美術館
・評者:實谷 総一郎

 クラーク・コレクションはミシン製造会社I.M.シンガーミシンの共同設立者の孫、ロバート・スターリング・クラークとパリのコメディ・フランセーズの女優だったフランシーヌが二人で蒐集したコレクションだ。夫妻のコレクションをもとに1955年に設立されたクラーク美術館は、研究所や教育機関を付設し、世界中の学生や研究者の注目を集める重要な視覚芸術の総合施設となっている。30点のルノワールの作品がとくに有名なクラーク・コレクションだが、これまで館を離れまとまって紹介されることがなかった。今回は、2010年から始まった改修工事に合わせ、作品を各国に巡回させる企画が立ち、日本でも開催されることとなったのである。展示作品数73点のうち日本初公開が59点、アメリカ旅行のついでに気軽に行けるような立地にない美術館であることも考えると、大多数の人にとって今回を逃すと一生見る機会がないと思われる作品が多い。
 本展はコレクション展の部類に入るが、作品の質が高く名品展の性質も有する。そうした展示にふさわしく、美術館の側から特定の方向付けが行われることはなく、バルビゾン派からポスト印象派までのゆるやかな年代順の配置と主題やテーマの親近性による自然な整理があるのみとなっている。各作品の個性に任せ、また鑑賞者の自由な見方に任せる展示である。身体表現など特定のものに意識を向けたり、一つの作品をじっくり見たり、画風を比較したりと、各画家の個性が集中する名品の多い本展は多様な見方を誘発する。
 とくに数の多かったルノワールの作品はやはり、画面に膜が張ったような独特なトーンによって際立って見えた。それはとりわけ《フルネーズ親父》や《シャトゥーの橋》で感じられた。その中で、この膜がない青年期の自画像は異質に見えた。横にある老年期の自画像が他の絵と同様のトーンで描かれているのを見ると、画家と自身の様式との複雑な関係が想像され、興味深かった。
 美術館の側からの全体的な方向付けはない一方で、個人コレクションならではの蒐集家の趣味が一定のカラーとして表れてもいる。ルノワールの絵画と言えば、時に暑苦しいほど暖色を用い、印象派らしく輪郭をあいまいにしたものが多いが、展示品ではそれとは反対に温度の低く、より鮮明な作品が多いように思った。こうした特徴はルノワール以外の作品にも見られ、実際、海、川、雨、花瓶といった水が関わる作品や青の美しい作品が強く印象に残っている。ジャン=レオン・ジェロームの《蛇使い》はそうした傾向の一つの典型かもしれない。近景に描かれた裸体の蛇使いの女の向こう側に重厚な壁がある。その壁面全体に、水のように透明感のある繊細な青が塗られていた。ただ率直に感嘆してしまう色彩には、美術館に足しげく通ってもなかなか出会えるものではない。クラーク夫妻は青を好んだだけでなく、青を見る目があったのだと実感した。
 ルノワール、ドガ、モネ、ピサロの作品が目立つ中で、一点だけ展示されている画家たちの作品も気になるものが多かった。ドーミエのコミカルな油彩《版画収集家たち》、自宅の庭師をボヘミアン詩人のように魅力的に描いたカロリュス=デュラン《画家の家の庭師》、歪んだ花瓶の曲線と水の透明感で人目を引くマネ《花瓶のモスローズ》、そして最後に展示されるボナールの《犬と女》には目に心地よい色彩、構成とデフォルメがある。
 「奇跡のクラーク・コレクション」展は良作が多く、純粋に絵を楽しめる展覧会だった。会期は5月26日までと長いが、せっかくなら自分のペースでじっくり見られるように、混雑する終了間際は避け、早い時期に行くのをお勧めする。


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