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[寸評]生誕100年 松本竣介展

・会期:2012年11月23日〜2013年1月14日
・会場:世田谷美術館
・評者:古舘 遼

例えば、東京国立近代美術館のコレクション展(現「MOMATコレクション」)へ足を運ぶと、かなりの確率で松本竣介の作品と対面することができます。《Y市の橋》《建物》《裸婦》と名品揃いですが、それぞれの絵は印象が違っていて、同一の画家によるものとは、にわかに思えないほどです。

しかし、そうした一種の違和感は、この大回顧展を観ることによって氷解します。絵画120点、素描120点、資料180点を、全館展示で惜しげなく公開する本展は、目まぐるしく作風を変えながら戦時期を駆け抜けた一人の画家の軌跡を、その生きた時代とともに追体験させてくれるのです。

多くの回顧展がそうであるように、大まかには、時系列に沿って画業を振り返る構成となっていますが、都市や人物など、作品のテーマによって分類されており、竣介の多様な側面を、順を追って辿ることができます。展覧会として大変スケールが大きい一方で、時間さえかければストレスなく鑑賞できるのは、一つの魅力と言えるでしょう。

作品についても、一言述べたいと思います。
円熟期の作品をじっくり眺めると、つややかで滑らかな画面になっていることが分かります。もちろんそれは、仕上げに塗られたニスによるところも大きいでしょうが、竣介の作品は、絵の具を何層にも重ねていながら、荒々しく盛り上げることはせず、ナイフなどを用いて一層ずつ丹念に塗り込んでいるのです。そのため、画面空間は大胆でありながら繊細で、すっとする透明感をたたえ、作品を目の前にしても、描かれたモチーフがそこに無いかのごとく、夢のような感覚を与えるように思われます。この感覚は、残念ながらカタログからは得ることはできません。

既に述べたように、竣介は一つのスタイルに甘んじることなく、赤茶を基調とした重厚な絵画を確立する途上で病に倒れるまで、頻繁に作風を変えてゆきました。そして、そのどれもが高い完成度を勝ち得ているのです。こうしたあり方は、同じく早世した、「道化師と蝶の画家」三岸好太郎にも通じるところがあるでしょう。

規模と内容の双方から見て本展は、日本近代美術を扱ったものとして、今年の展覧会において五指に入ることは疑いありません。カタログの厚みからも、その充実を感じ取ることができます。そのカタログは、論考・エッセイを8編収録しているほか、竣介の書簡や蔵書目録まで載っており、研究の基礎文献としての役割も十分に果たすものです。

また、これからどんどん冷えゆく季節、そして、世田谷美術館の建っている砧公園の雰囲気と、松本竣介の絵画はマッチしているように思われます。それは、竣介の絵画に、常にどことなく寂しさと清々しさが同居しているためでしょう。その詩情あふれる作品世界に、多くの人が共感し、寄り添われているような感覚を得るはずです。


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