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[寸評]すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙

・会期:2012年2月11日―3月25日
・会場:神奈川県立近代美術館 葉山
・評者:松尾 梨沙

 神奈川県立近代美術館は県内三カ所(鎌倉、鎌倉別館、葉山)に分立しており、2003年に開館した最も新しい葉山館は他の二館より少し離れ、やや行きにくいところに位置しますが、すぐ目前に広がる海の何と美しいこと! 他方すぐ背面は山に囲まれ、ようやく春の日差しを感じ始めるこの時期にあっては、訪れるだけで心地よい相模湾の潮風と絶景を楽しむことができます。この葉山館で3月25日迄開催中の展覧会「すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙」に行って参りました。

 村山知義(1901-1977)は1922年に留学したベルリンで、ダダや構成主義などの新興芸術に触れ、帰国後はその多大な影響から、油彩、コラージュなどの造形作品をはじめ、機関誌『マヴォ』発刊、新興ダンスパフォーマンス、舞台装置制作、建築、雑誌の装幀、ポスターデザイン、児童文学挿絵、さらには小説や評論の執筆まで、信じ難いほどのあらゆる創作活動に手を広げ、20世紀前半の激動の時代の日本に大きな足跡を遺した芸術家です。水沢勉氏も触れているように、まさに「美術」という言葉の定義そのものを、芸術家本人が揺るがしたのではないかと思わせるほど、創作範囲があまりに広すぎるため、展覧会に訪れるまで村山という人物をよく知らなかった私にとっては、果たしてその全ての創作に一貫性があるものかと、半ば訝しく思うところがありました。この展覧会は、そうした私の疑念を完全に払拭し、とくにその時系列的な展示方法と詳細なキャプションが、全ての創作に通ずる彼独特の性格や個性を、明確かつ強烈に見る者に伝えてくれていました。

 どのジャンルにもそれぞれに惹き付けられる魅力を持ち、一つ一つ丹念に追っているといくら紙面があっても足りなくなりそうですが、一貫して言えるのはそのくっきりしたラインと色彩、様々な図形をいくつも重ねる描写、視点の位置に無限の可能性を与える空間表現の面白さであり、それらがたとえ油彩であろうが舞台装置であろうが装幀であろうが建築であろうが、村山が本質的に備えた個性であったように感じられました。中でも印象的だったのは、彼が編集、発刊した機関誌『マヴォ』です。第3号の表紙では癇癪玉を貼り込んで発禁回収処分となったように、この機関誌のデザインは常軌を逸しており、掲載されている詩も写真も、しまいにはページの打ち込みまで、あらゆる方向からの見方が成立するようにできています(実用を考えると決して機能的ではありませんが)。雑誌、あるいは美術館の形態そのものの芸術性を問うような見方が、すでに1920年代の日本において発想されていたことを考えると、常に時代の先陣を切ろうとした村山の意気込みに圧倒される思いです。

 展覧会はこの後、京都国立近代美術館(2012年4月7日--5月13日)、高松市美術館(2012年5月26日--7月1日)と巡回し、最後は世田谷美術館の予定です(2012年7月14日--9月2日)。


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