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[寸評]第三回恵比寿映像祭

・会期:2011年2月18日~2月27日
・会場:東京都写真美術館
・評者:堀江 秀史

東京都写真美術館にて現在開催されている映像祭に行ってきました。
美術館全体が解放空間になっていて(無料で入れます! 但し、一階映画館の上映作品を観るにはお金がかかります)、三階から展示がスタートします。

三階は、映像表現の様々な可能性を探求した芸術=実験的な作品が主でした。
昨年カンヌでパルム・ドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセクタン(受賞作は『ブンミおじさんの森』、3月5日渋谷シネマライズにて公開)の映像がまず最初に飾ってあり、劇映画の他、こうした実験的映像も作っているのかと、感心しました。
その他、映像として興味深かったのは、太極拳を舞う白髪の男性が、その動きに合わせて徐々に横に伸びていく(言葉では伝わりにくくてすみません。もっともだからこそ、映像としておもしろいと思うのですが。カタログ掲載の写真を見れば、だいたいは掴めます)、ダニエル・クルックス《動きの中に静寂を求む》です。他に《走る男》(ルームランナーで走る若者が、同様に横に拡がっていくもの)も展示されていますが、やはり前者の方が、ゆったりとした太極拳の動きと映像加工の緩慢な速度がマッチしている点で、面白いものだったと思います(《走る男》はスローモーションに加工した映像をさらに加工するものだったと記憶してます)。
コンセプトとして興味深いのは、ダヴィッド・クレルボの《幸福なモーメントの諸断面》。静止画の映像の数々が、デジタル・フレームのように、巨大なスクリーンに一定時間ずつ映しだされていきます。特異な点は、作品に付された解説にもありますように、それらの静止画が、同一の時空での出来事(マンションに囲まれた中庭で、昼間陽が射すなか、子供たちがボール遊びをする。それを大人たちが見守る。ボールはちょうど放物線の頂点あたりにあり、皆の視線はそこに集中している)を様々な角度から写していること。そして、同一時空であるならば、別の視点から写せば撮影者の姿が写真に写り込んでいるはずなのに、それらの写真には撮影者が一切写り込んでいないことです。同一の時空であることへ観る側の意識を寄せさせるのは、空中で静止したボールと、光によって生じる影の角度、この二点でしょうか。このことに気づくと、違和感が生じ、「ある種暴力的な視線を彼(彼女)らに注ぐことになってしまう」(カタログ及び当日のパネルより)わけです。「暴力的な視線」とは、映像の謎解き、つまりはあら探し、のことでしょう。撮影者が写っていないのならばシチュエーションを綿密に規定した上で、同じことを繰り返し行って何度も撮影したに違いない。ならば、表情やしぐさには、どんなに頑張っても、微妙な差異があるはずだ。その証拠を探し出してやれ。という思考の流れにそって、鑑賞者は、その、穏やかな日常の光景という写真内容を通り越して、あどけない少女の顔のアップ写真にすら、少女の顔をみるのではなく、前の写真との差異を見つけだそうとしてしまう。しかし、それは一定時間ずつ映し出されては消えていくので、決定的な証拠を見つけだすには時間が足りない、あるいは多すぎる(前の写真の記憶をなくさないようにするためには、少々長すぎる)。または、アルバム写真のように、前のページに戻ってじっくり観たいという欲求にかられる。時間とともに流れゆく映像はリニアで、観る側にそのような自由を渡してはくれない。観る側は余計にいらいらしながら、目の前の静止画が移ろいゆくさまをただ観ているだけ。解説には、作者は「作品の長さや編集のテンポ、音響効果、鑑賞環境など、観客の体験を左右する諸要素を厳密に設計する」とあるので、こうした「いらいら」は、全て織り込み済みであり、この作品には、極めて完成されたコンセプトが凝縮されていると云えます。写真に対する問題提起のほか、ユーザーにとってのデジタルとアナログの問題(デジタル書籍と紙媒体など)の融合された、大変面白い作品でした。


二階は、意識下の映像化をコンセプトとした作品が多かった気がします。マニュアルな作業で作られるアニメーションの、制作に使われた(あるいはその過程で生まれた)美術品の展示が主ですが、内容的なテーマとしては三階よりも二階に近い映像作品も三本(スーパーフレックス、水越香重子、ハヴィア・テレーズ)、上映されていました。
スーパーフレックスの作品は、無人のマクドナルドが徐々に水で埋まっていく過程が、おそらく各所に置かれた定点カメラ(水によってそれぞれがだんだんぷかぷかと揺れ動くのですが)によって記録され、それらが編集されたものです。世界に何が起こったのか、人々はどこへ行ったのか、等々、そこには一切の説明がありませんが、映画の予告編、あるいはオープニングを観ているような、高密度な期待感、緊張感が持続していく、不思議な作品でした。

二階から地下一階の展示への移動は、エレベーターではなく階段をお薦めします。しりあがり寿の『白昼夢夫人』が小型スクリーンで階段の随所に並べてあるからです。白黒で3分程度の各作品は、モダンな洋館で昼寝をする夫人がナンセンスな夢をみる、というものですが、ほのかなエロティシズムとナンセンスが混淆して、非日常への橋渡し的な役割を果たします。

これらを見ながら、辿りつく地下一階の展示室では、まず最初に、同じくしりあがり寿の「ゆるめ~しょん」シリーズ作品が小型スクリーンに映し出すかたちで幾つも並べられてあります。薄暗い照明の中、天井からベールを垂らして、その中に各スクリーンを閉じ込めており、映像の光がベールを照らしてその部分をぼうっと浮かび上がらせる、『竹取姫』のお姫様の登場シーンのようなことになっています。近づけば、その中にいるのが「おじさん」である点も、落差があって面白い。文字通り(今回の映像祭のタイトルは、「デイドリーム・ビリーバー!!」です)、白日夢空間へと迷い込んだ感があります。
その他ここでは、社会と映像との接点を捉える作品の展示があります。ネットへの匿名投稿における主婦の言葉を女優が語る森弘治の《Re:》、ネット内空間「セカンド・ライフ」を使ったツァオ・フェイの《RMB》。最後には、米軍のバーチャル映像を使った軍事訓練を扱ったハルン・ファルッキ《シリアスゲーム》。

映像は夢を現実化した表現である、というコンセプトに沿って、テクノロジー的な側面から始まり(三階)、意識の底をえぐるような映像の力にも焦点をあて(二階)、展示が進むごとに映像によって夢と現実の境界があいまいになっていく(二階~階段~地下一階)。かといって、それは芸術の問題だけに止まってはいない。社会的、政治的な利用もされる(地下一階)。それを批評的な眼差しで捉えるのもまた、映像である(《シリアスゲーム》のように)。このような流れが、随所に凝らされた工夫でじわじわと浮かび上がってくる展示でした。

報告の最後に要望を二点。
レセプションでは、二階の吹き抜け空間で、恵比寿駅と逆側のエントランスを背にして、開催の辞が述べられたほか、今回出品されているアーティストの方たちの紹介がありました。これまでも何度かこちらの内覧会には伺わせて頂きましたが、毎回大変な混雑で、肝心の、挨拶をされる方々がわれわれと同じ高さの床に立っておられるため、姿が見えないことが多いです。本当に簡単なものでも良いので、ちょっとした舞台(例えば、しりあがり寿さんがピンク地に黒文字というスタイリッシュな映像祭パネルの前で、仮にビールケースをひっくり返して壇としてご挨拶されていたら、とても恰好良かったのではと思います――冗談でなく)をしつらえてもらえれば、遠目からでもお顔が拝見できるのですが。

もう一点、先日、今一度観覧に行ったのですが、そのときは同じ場所でアーティストの方がラウンジトークをされていました。それほど混雑もなく、ラウンジに用意された椅子に座って聞かせて頂けたのですが、せっかくのお話なのに、吹き抜けの場所だからか、正面の椅子に座っているとマイクの声が拡散して聞きづらいという難点がありました。三階にもスピーカーが設置してあり、その声を聞けるようになっているのですが、そちらで聞いた方がよっぽど聞き取りやすい。これはもうひとつ、残念なこととして挙げておきたいと思います。


写美から出てすぐ、ガーデンプレイスの中庭あたりでは「オフサイト展示」もされているほか、チェコ・センター、日仏会館などとタイアップして様々なイベントが開催されているようです(詳しくは写美にある映像祭のチラシをご参考ください)。
カタログ、展示は全て日本語と英語の二ヶ国語表記です。カタログは、展示のみならず、オフサイト展示、上映映画、イベント全てのカタログを兼ねています。ここでは紹介できませんでしたが、一階映画館上映の映画も貴重なものばかり、もうあと少ししか時間がありませんが、チケットが売り切れてなければ、観賞をお薦めします。

写美での映像祭は今週末までで終了しますが、お時間があえば是非、この楽しいお祭りを観にいってください。

※ここでご紹介した作品名は、簡略化したものもあります。正確な情報はカタログをご覧ください。


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