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[寸評]「大正イマジュリィの世界」展

・会期:2010年11月30日〜2011年1月23日
・会場:渋谷区立松濤美術館
・評者:伊藤 由紀

12月11日に会場内で鼎談「大正 唄うイマジュリィ、踊るイマジュリィ」が行なわれたのに合わせて展覧会を見てきました。お話は谷口朋子氏(挿絵研究家)、芳賀直子氏(舞踊研究家)、辺見海氏(編集者)のお3方。

まず芳賀氏から、バレエ・リュス関連の図像が大正期の商業美術に与えた影響が紹介されました。演目の写真が雑誌の表紙画などのヒントとなった事例はすでに知られていますが、芳賀氏はこのほかに、バクストによる衣裳の柄がそのまま図案として利用されたケースもあることを指摘しました。

これに関連して辺見氏からも、明治・大正期に多数出版されていた図案集というジャンルについて、そしてその性質の変遷について説明がありました。

谷口氏は、竹久夢二の手がけた「セノオ楽譜」の表紙画を主に取り上げていました。セノオ楽譜出版によるこのピース譜のシリーズは、翻訳歌劇の楽曲を多数含んでいることから、私も歌劇の受容史研究において参照することがあり、興味深くお話を伺いました。

谷口氏はまず、本展覧会のポスター等に使われている「汝が碧き眼を開け」(cat. TY-6)について、マスネの同名の楽曲だけでなく、組曲の他の2曲の内容も踏まえて小道具があしらわれていることを指摘します。

その一方で谷口氏は、「歌劇カルメンハバネラの歌」(cat. T-1)、「歌劇椿姫」(cat. TY-17)など多くの作品が、独『Jugend』誌の口絵を下敷きにしたものであることも、それぞれの図版を並置する形で示しました。ということは、夢二の表紙画は必ずしも、それらの歌劇の日本における上演の実際を反映したものではないらしい、ということになります。私にとっては残念な、でもそれだけに有益な情報でした。

なお夢二の楽譜表紙については、年明けの1月9日にも、竹内貴久雄氏(音楽評論家、音楽文化史家)によるギャラリートークが予定されており、こちらも楽しみです。

さて、展覧会は2部構成。地下1階の展示室は「大正イマジュリィの13人」と題して、時代を代表する13人の芸術家の挿絵や装幀の仕事を、作家別に展示しています。2階の展示室は「さまざまな意匠」と題して、「エラン・ヴィタル」「子ども・乙女」「大衆文化」など9つのテーマ別に作品を配しています。主任学芸員の瀬尾典昭氏の、鼎談冒頭の挨拶によると、出品数は全部で約700点にものぼるそうです。

会場には13人の作家と9つのテーマについて説明があるのみでしたが、鼎談の中で行なわれていたように、個別の作品について、その発想源を合わせて展示するなどの解説があっても良いように思いました。

2階の展示室では、CD『あの頃の歌』(日本ウエストミンスター、2006年)が小さな音で流されていました。この音源は1970年頃に、洋楽黎明期の声楽家(当時60〜80歳代)を集めて収録したもので、その資料的価値においても、志においても、大正期の愛唱歌を取り上げた他のさまざまなCDとは一線を画しています。その代わり、たとえば榎本健一らのケレン味たっぷりの録音に比べると地味に聞こえてしまうのですが、おかげで展示を見る邪魔にはなっていなかった、と思います。

カタログはA5版191ページ、2,200円(税別)。展覧会と同じ2部構成ですが、大きな図版が掲載されているのは出品物の約半数程度のようです。巻末に「作品リスト」として、数センチ角のサムネイル画像と作品データを一覧にしたページがあるのですが、これも会場で配られていた「作品リスト」(A4版9ページ)に比べると、だいぶ不足があります。瀬尾氏のお話によると、企画の初期段階には、これほど大規模な展示になるとは想定していなかった、とのことなので、そうした事情が関係しているのでしょうか。

カタログはこのほか、瀬尾氏の序文と、企画監修の山田俊幸氏(帝塚山学院大学)による短い解説、島本浣氏(京都精華大学)と谷口氏による対談、主要作家110人超の略歴、関連年表を収録しています。充実した鼎談を拝聴したあとでは、そこで出てきた情報がカタログにはほとんど含まれていないことを残念に思います。とはいえ今回のカタログは一般書店でも購入できるようなので、多くの人がこの分野に興味を抱くきっかけになれば、と期待します。


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