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[寸評]「きらめく装いの美 香水瓶の世界」展

・会期:2010年9月18日〜2010年11月28日
・会場:東京都庭園美術館
・評者:伊藤 由紀

会期に先立って17日に行なわれた特別鑑賞会に、美博に届いた招待券をいただいて行ってきました。

鑑賞会ではまず30分ほどのレセプションがあり、庭園美術館館長の井関正昭氏と、本展監修者のマルティーヌ・シャザル氏の開会挨拶のほか、後援のフランス大使館や、出品に協力した各美術館からの出席者が紹介されました。

開会挨拶を聞いているうちに、柑橘系にムスクの混じった良い香りがしてきました。庭園美術館の建物は旧朝香宮邸を利用したもので、レセプションの行なわれた第1展示室の次室には、アンリ・ラパンのデザインによる「香水塔」と呼ばれるオブジェがあります。宮邸で来客時にこのオブジェの照明部分に香水を垂らして芳香を漂わせたというエピソードに因んで、本展覧会では資生堂の協力のもと、「香水塔」周辺で「香りの演出」を行なっているとの説明でした。控えめで嫌味のない良い香りでしたが、「アール・デコの館」朝香宮邸という場所柄や、出品物の大半が20世紀前半の香水瓶であることを考えると、もっと大時代な香りのほうが似つかわしいように思われました。

さて、本展覧会の出品は約350点、うち約280点が広島にある海の見える杜美術館の収蔵品だそうです。古代から現代に至るまでの、材質も大きさもさまざまな香水容器のほか、ラベルやポスター、販売店の写真などが、ほぼ時系列に沿って配置されています。19世紀までの香水が、簡素な規格容器で販売され、使用者それぞれが好みに応じた容器に詰め替えて使う、というスタイルだったのに対し、20世紀の香水は、香水商や服飾メゾンによって空想的な名前を与えられ、そのイメージに合った装飾的な香水瓶に詰めた状態で販売されるのが一般的になりました。このため出品物もこの時代のものが最も充実しています。ただし20世紀後半以降については、一部の限定モデルの香水瓶が紹介される程度です。

展示の一部に使われていた六角柱の展示ケースには、見る人の多くが一瞬驚いた表情を浮かべていました。六角形の対角線上に鏡を配して三角形6つに区切り、それぞれの区画に1つずつ出品物を置いたものです。出品物の背面の意匠を鏡で確認できることに加え、隣の区画へと一歩足を進めるだけで、目の前に見えるものが一変するという、万華鏡のような効果もあって素敵でした。

その一方で、カタログの表紙にも登場する1999年の「ジャドール」限定ボトル(cat. 351)では、肝心の「透明な栓の奥底から《ジャドール(大好き)》の文字が浮かび上がる」ギミックを確認できない展示の仕方だったのが残念でした。また、香水瓶とそれに関連するラベルやポスターがやや離れて展示されていることが多かったのも不便に感じました。

何より、美しい香水瓶とその名前とを目にすれば、やはりその香水の匂いを知りたくなります。それぞれの香水の香調について、会場にもカタログにも説明がないのをもどかしく思いました。もちろん今回は香水瓶の展覧会であって、香水そのものの歴史を示す機会ではないですし、古い銘柄だと資料が残っていない場合もあるのでしょうが。

もう1つ、個人的に物足りなく思ったのは、これらの香水瓶と日本との関わりが示されないことです。本展覧会の出品物の中には、明治期に「赤箱」の愛称で流行した「フルール・ダムール」(cat. 58)、日本人女性の名を冠した「ミツコ」(cat. 155ほか)、今上陛下即位記念の香水瓶(cat. 353)など、香りを通じた日仏交流の痕跡がいくつも含まれていますが、そうしたエピソードの紹介は特にありませんでした。しかし井関館長の開会挨拶には、日本には(香水瓶を作るほどの香りの文化は発達しなかったものの)香水瓶の優れたコレクションがあるなど香りへの関心は高い、との一節がありましたし、しかも会場は「香水塔」を擁する旧朝香宮邸です。日本における香水の受容について、解説があっても良かったと思います。

カタログは菊判ハードカバーで426ページ、図版とほぼ同等のページ数をシャザル氏の論文が占めているほか、庭園美術館の高波眞知子氏による、本展覧会の特徴的な出品物と、「香水塔」とに的を絞った短い論文も収録されています。図版の多くは原寸大より大きく撮影されていて、細部の意匠が確認できるのは良いのですが、香水瓶の小ささゆえの愛おしさのようなものは、損なわれてしまったように思います。実寸と材質は巻末の出品リストで確認できます。


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