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[寸評]「イギリスの美しい本」展

・会期:2006年 7月22日(土)― 8月27日
・会場:千葉市美術館
・評者:安藤 智子

 私たちが愛してやまない「本」という「物」を芸術作品のように鑑賞し評価するという主旨は意欲的であり、興味を惹かれる企図でありました。本の出版は、文学というテクスト、紙と活字の印刷技術、挿絵と本の装丁という美術のコラボレーションであり、まさに領域を横断する対象として研究の目が向けられるべきであると思われます。

19世紀後半から20世紀にかけてのイギリスにおいて、モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動や中世趣味への回帰、ジャポニスムなど様々な事柄が錯綜していた状況下で出版されていた「私家版」と呼ばれる美しい本がこの展覧会の主役であります。このような芸術的動向のなかで活躍した芸術家たち、つまりロセッティ、バーン=ジョーンズ、モリスたちは、「私家版」の本の出版に深く関わっており、展覧会では、彼らの挿絵を実際に見ることができ、改めて感銘を受けました。

「本」を展示することはそもそも困難な作業のようで、暗い照明のもと、ケースに入れられた「本」の見開き1ページ(計2ページ)しか見ることができません。一部鏡を使って、本の表紙と中身が一度に見られる展示もありましたが、ほとんどの開かれた書物は、中の2ページだけが鑑賞可能で、外の装丁は鑑賞不可能なのです。つまり、本の中と外、テクストと装丁といったコラボレーションの妙味を鑑賞することはできませんでした。

例えば、バーン=ジョーンズが挿絵を担当し、モリスが装丁を施した『チョーサー著作集』は、バーン=ジョーンズ本人によって、「ゴシックの大聖堂」にも匹敵する芸術の集大成であると評された作品ですが、その作品たるべき本は装丁を見せるために閉じられており、中のテクストも挿絵も見られないままでした。古い本を開いて展示することによる、本への物理的な負担が考慮されているとも考えられますが、私個人としては、図版からのコピーでも、中のテクストや挿絵を並置して見せて欲しいと感じました。

小規模な展覧会ではありましたが、小規模だからこそ、親密に鑑賞者へ訴えかける何かひと工夫が必要ではないでしょうか。まして、多くの鑑賞者にとって、これらイギリスの画家たちは馴染みがないのですから、パネル展示で予備知識を与えるだけでは十分とは思えません。カタログも簡潔な内容となっており、「作品」としての「本」が持つ紙やインクの質感が表現されていないのは残念です。

しかしながら、上述したように、イギリスの「私家版」は、これからさらに研究が進められる可能性を秘めており、そしてこの展覧会は、問題含みではありますが、「私家版」を知らしめる契機となるであろう、意義のある試みであったと思います。


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