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2006年12月 アーカイブ

2006年12月17日

[寸評]ポーランド国立ウッチ美術館所蔵「ポーランド写真の100年」展

会期:2006年7月25日-8月27日
会場:松涛美術館
評者:佐々木悠介

ポーランド写真の100年を観てきました。
土曜日なのに他にほとんど客はいなくて、閑古鳥が鳴いていました。

展覧会の方向性は明らかで、とにかく今まで知られてこなかったポーランド写真
をガッと集めてバッと見せる、ということです。

1930年代あたりから80年代くらいまでのものを中心に、時代順、作家ごとに簡単な作家紹介を付けて展示していましたが、やはり時代に応じて、たとえ ばピクトリアリスムの作家がいたり、シュルレアリスムの影響を受けた作家がいたり、ドキュメンタリーフォトの作家がいたり、というように、ポーランドに も20世紀の写真史をリアルタイムで辿ってきた歴史があることがわかります。さらにナチス時代、その後の共産主義の時代、民主化、という政治的なバック グラウンドの中で、ポーランドの写真家達が、体制とは常に一歩距離を置いて(なかにはかなり批判的な態度を取って)活動してきた、ということもわかりま す(もっとも、かつて体勢に迎合していたような写真家がいたのに、現在のポーランドの写真史の中からはほぼ抹消されているという可能性もありますが、そ の辺の事情はわかりません)。

しかしいくら約200点持ってきた、といっても、それで20世紀のポーランドの写真史の多用な側面を、イストワールとして把握することはとても無理であ り、ある程度(欧米の)写真史のバックグラウンドを知っている人でも、おそらくそれぞれの時代のそれぞれのジャンルの写真の中に、展示されている写真を 位置づける(ああ、こういうのはポーランド「にも」あったのか)という感じです。もしポーランド独自の写真史というものがあるとしても、今回の展示は、 それを説得力を持って示すところには至っていないように感じます。

カタログですが、まだちらっとしか見ていないものの、これまでなかった、ポーランド写真史のガイドブック・資料という意味では有効なものになりうると思 います。買いです。ただし上にも書きましたけど、今回はポーランド国立ウッチ美術館の所蔵品を持ってきた展覧会であり、現在のポーランド国立美術館の所 蔵品には含まれていないような、あるいは含まれていても公開されていないような、体制に協力的な写真家の存在が、本当はあるのではないか、という気がど うしてもします。
もちろんフランスなんかでも、写真家は亡命者であることも多く、体制とは距離を取って活動した人が多いわけですし、ポーランドでもそうなのかも知れませ んが、それにしてもあまりにもきれいなところだけ見せてはいないか、というわけです。
もっともこれはただの憶測に過ぎず、何の根拠もないのですが。

以上、簡単な感想です。

2006年12月28日

[寸評]Le Scrapbook d'Henri Cartier-Bresson

・会期:2006年9月21日-12月23日
・会場:パリ、アンリ・カルティエ=ブレッソン財団
・評者:佐々木 悠介

 ご無沙汰しております。皆様お元気でしょうか。
 偶然ブリュッセルの本屋で、パリのカルティエ=ブレッソン財団で行われている展覧会のカタログを見つけ、なんとか最終日の二十三日に行ってきました。財団の建物で行われている展示会ですので規模は大きくありませんが、この展覧会の趣旨は、カルティエ=ブレッソンのスクラップブックに貼られていた写真を展示するということです。マグナム・フォトの写真家は、マグナムが厳重にネガやコンタクトシートを管理しており、文学研究で言うところの「ジェネティック」スタディーズの可能性はほとんどありませんでした。C−Bの場合も、『CONTACTS.』というDVDでごく数枚の写真のコンタクトシートを見られるだけでした。今回の展示で、限られた量でもスクラップブック段階の写真が公開されるとなれば、どうしても興味をそそられます。
 彼の写真にはすでに有名になってあちこちで目にするものが何枚もありますが、そうした写真の前後に撮られた、いわゆる「ボツ」写真も展示されていることで、後年の展覧会の際に彼自身がどのような目で写真を選んでいったのかを窺い知ることが出来ます。スクラップブックの写真ですから、いわゆるサービス版サイズの小さなものであり、また彼自身が焼き付けしたものがほとんどでしたが、一つの驚きは、その状態で見ると写真としての完成度が驚くほど低く見えることでした。たとえばジョリオ=キュリー夫妻の写真なども全体的に陰がかかって黒ずんで見えます。多くの写真家にとって写真の重要な要素となる光の加減といったものは、彼にとってはそれほど重要ではなかったということを改めて実感します。
 しかし何と言っても最大の収穫は有名な「パリ、サン=ラザール駅前」の写真に、直筆のトリミング指示が書き込まれていたことです(!)。カルティエ=ブレッソンはトリミングをしない写真家として知られ、それが神話にもなってきましたが、図版につけられた説明によると「これはC−Bが最初のプリントでトリミングを行った二枚のうちの片方(もう一つはピエール・コルのポートレイト)で、直筆のトリミングの痕跡が残っている唯一の図版だ」ということでした。大阪芸術大のコレクションの展示(あのコレクションはピエール・ガスマンのプリントだったと思います)の頃に、今橋先生が「サン=ラザール駅」だけ黒い縁(ネガの内枠)が入っていないから、あれは怪しいんじゃないか」とおっしゃっていましたが、それを思い出して、思わず唸ってしまいました。
 財団が今後も研究者の視点を考慮した資料の公開を進めていけば、面白いことになりそうです。ところで、当日は残念ながら現金の持ち合わせがなくてカタログが買えませんでしたが、近日中に書店で手に入れる予定です。日本の皆様はAmazon.frで買えます。ではどうぞ良いお年を。

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